及川徹の場合

だるい、しんどい。一言で表せば最悪。ベッドに寝転がりながらそんなことを思った。いつもなら今頃、徹と一緒に帰ってるんだろうな。いつも徹はむかつくけどこういうときに隣にいないと何か寂しい。どんだけ私って徹好きなの……きっと風邪をひいてるからこんなこと思うだけだよ。そんなふうに自己完結すると枕元に置いてあるスマホからピコンと電子音が聞こえた。手をゆっくり伸ばすと徹からのLINEだった。少しにやける。しかし内容が心配してるのはわかるんだけど煩い内容だ。
『名前ちゃん、今部活終了!大丈夫?心配!』
それに返信を打とうとするもだるくって動作がのろい。そんなことしてるうちにまた徹からメッセージが届く。
『今日、確か名前ちゃんの親いない日だよね?一人でしょ。大丈夫なの?』
何で私の親がいないの知ってるんだ。今日は両親に用事があるだけなのに。それでも心配してくれるのは嬉しいのでまた返信を打とうとする。それもまた遅いもので、また徹からは一方的なメッセージが届く。
『ということで名前ちゃんのお家行きます!おかゆで良いよね。果物も買うね!じゃあ今から名前ちゃんの家に向かいます。あ、途中にスーパー寄るから少し遅くなっちゃうかも』
徹来てくれるんだ、嬉しい。けど家あんまり綺麗じゃないかも。それに私、寝巻きだし髪の毛ぼさぼさだし。やっぱり断ろう。どうやって断ろうか。そんなことを考えているとまたメッセージが届く。
『スーパーに到着ー。走りました。おかゆは卵で良いよね。果物も適当に選んどくね』
「え、着くの早っ……」
徹どんだけ走ったの。思わず声が出てしまう。今日の朝から声出してなかったけど声の嗄れ方酷くなってる。こんな声で徹と話したくない。しかし今更、来るなとか言えない。それに来てほしい。買い物中なのか十分程メッセージに間隔が開く。その間、寝てしまいそうになった。
『今、スーパー出たよ。林檎とプリンも買った!待っててね』
徹って林檎剥けるのかな。どうでもいいんだけどそんなことが気になった。けど徹って器用そうだから案外できるのかも。私は今度こそお礼を言おうと打ち始める。あり、と打つと予測変換でありがとう、と出てきた。私はそれを押して送信する。やっとお礼言えた。あとは待つだけだ。ほっとしているとまた徹からメッセージが届く。
『今、名前ちゃんの家の近くの公園だからあと5分くらい。家の扉開けてもらえる?』
そうだ、扉開けないと。わかった、と予測変換を駆使しながらのろのろと打つ。そしてゆっくりと起き上がる。起き上がると頭がくらっとして倒れそうになる。
「うっ……」
私はスマホを片手に持って歩く。しんどすぎる。頭は痛いしくらくらするし。それでも徹を迎えるために私は玄関に向かって歩く。その間にもメッセージは届く。
『名前ちゃんちの近くの信号待ちー!待っててね!』
『一つ手前の角まで来ましたー』
そんな言葉を見ていると何かの都市伝説を思いだした。メリーさんだっけ。どんどん近付いてくるやつ。小さい頃すごい怖かったのを覚えている。徹だから嬉しいなんてね。私は扉に手を伸ばして二つの鍵を開ける。ここまで本当、疲れた。
「はあー……」
溜息を吐いて手を扉に当てると、扉は予想以上に冷たかった。冷たくって気持ちいいかも。私はぼけーっとしながらその扉に寄りかかった。あ、気持ち良い。冷たくて。私はそのまま身体を扉に預ける。力が抜けて、スマホが手から落ちた。電子音が鳴る。徹はもうすぐ来るんだし見なくていいか。そんなふうに思っていると扉が急に開く。
「え」
私は扉に身体を預けていたからそのまま外に倒れる。足ももつれる。そのまま扉を開けた張本人、徹の胸に飛び込む。徹の驚いたような顔が一瞬視界に映って、そのまま暗くなる。
「名前ちゃん!?」
「あ、ごめ……」
徹の匂いは安心できる。徹の胸に飛び込んだときそんなことを思った。優しい匂い。幸せな匂い。来てくれて、本当良かった。
「ううっ……徹っ、ありがと、来てくれて」
風邪だから涙腺がゆるいのか感情的になっているのか。涙が零れてきて徹のブレザーに染みていく。
「え、大丈夫?名前ちゃん?」
頭上から焦ったような不安げな声が聞こえてきた。
「うん、大丈夫っ……徹が来てくれて嬉しくって」
「そっか」
徹は優しい声でそう言うと背中を撫でてくれる。落ち着く。呼吸を落ち着かせて私は徹から離れる。
「ありがと」
「じゃあ家の中入ろうか。ここにずっといたら風邪悪化しちゃうし」
「うん」
鼻を啜りながら返事をして、落ちたスマホを拾う。前屈みになるとくらっとして倒れそうになる。そこをまた、徹が支えてくれた。
「ごめん……ありがとう」
「名前ちゃん、危なっかしすぎ」
徹はそう言うと、私の膝裏と首に手を回す。
「え、何?」
「恥ずかしいかもだけどごめん。暴れないでね?」
そう言うと徹は私をひょいっと持ち上げる。所謂お姫様抱っこといものだ。
「じゃあ名前ちゃんの部屋行こうか」
「私、一人で歩ける……これ、恥ずかしい」
「駄目!さっきは歩けたかもだけど、及川さんがいるときは危ないことさせませーん。もっと甘えてください!」
徹は頬を膨らませながらそんなことを言った。可愛くて少し笑ってしまう。
「え、何で笑うの?」
「何でもないよー。じゃあ今日はたくさん甘えさせてね」
私はそう言ってまた徹の胸に顔を埋めた。

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