05
優季ちゃんが行ってからまた少し静かな時間が流れた。その間も私はずっとどきどきしていた。そしてまた及川君が話し始める。
「……えっと、言っても良い?」
「あ、う、うん!」
及川君は浅い呼吸を繰り返すと私のほうを見つめて言った。その目はとても綺麗だった。
「苗字ちゃんのこと、好き。付き合ってください」
及川君が言ったその言葉はシンプルだった。その分、胸にしっかりと響いた。まさか及川君が私に告白してくれるなんて思いもしていなくて、言ってほしいと望んでいたことが実際に起こって嬉しさがこみ上げてくる。
「返事は?」
及川君は不安そうな顔をしてそう私に尋ねる。
「……嬉しい、私も好きだから。よろしく、お願いします」
私が笑うと及川君も安心したように頬をゆるませた。そして大きく息を吐く。
「良かったー、ふられちゃったらどうしようかと思ったよ。ずっと好きで、ずっと悩んでた。それで今日、こうやって告白成功して本当、嬉しい」
私が及川君のことで悩んでいたとき、及川君も同じ気持ちだったことが嬉しい。私だけじゃなかったんだ。好きって思ってたの。心の隅のほうがうずうずする感覚がした。同じだって、そういうのを共有したくて「私も、同じだった」と小さく呟いた。
「及川君がこうやって私に告白してくれたなんて……言葉は悪いかもしれないけど嘘みたい」
「嘘じゃないよ」
及川君はそう言うと優しく笑い私の頬に手を伸ばしてきた。
「こうやって、触ることだってできる」
そして顔を近付けると私の頬にキスを落としていく。
「キスだってできる」
キスをした及川君は嬉しそうだった。突然のことに私は驚いてただ及川君を瞬きしながら見つめることしかできなかった。まさかキスをされるなんて思っていなかった。ずっと見ているだけだと思っていたから。なんだか今日はたくさんのことが起こりすぎている。
「キス、嫌だった?」
私が思考を巡らせている間、何も言わないのを不安に思ったのか及川君は少し残念そうな顔をする。その顔を見るとキスをされたのだと、驚いているだけではなく恥ずかしいような嬉しいような気持ちがわいてきた。そして私の頬は瞬く間に熱くなる。
「そ、んな、全然嫌じゃない。えっと嬉しい、です」
何故か敬語になった私を見て及川君は面白そうに笑う。たくさんの表情があるものだ。及川君はその表情を止めてさっきみたいに優しい顔になった。そして及川君は律儀にも「苗字ちゃん、これから改めてよろしく」とあいさつをして頭を下げてきた。私もそれに答えるようにして「うん、よろしくね。及川君」と言った。なんだかその一連の動作は照れくさかった。
「あ、そういえば海神さん、だっけ?俺のせいで帰らせちゃってごめんって言ってもらえるかな?会えたら俺が直接言うけど」
「うん、言っとく。私も謝らないと」
そういえば優希ちゃんを一人で帰らせちゃったんだよね。けっこう夜遅いのに。丁度、岩泉君と会えていればいいんだけど。及川君は私が考えている間、出した椅子を片付けていた。そしてそれが終わると私の前にまた立つ。
「苗字ちゃん、じゃあ、一緒に帰ろうか」
及川君は私に手を差し出しながらそう言った。
「うん」
私はすぐに返事をしてその手に自分の手をそっと重ねて立ち上がった。及川君の手は暖かかった。その暖かさに頬がつい緩んでしまう。私はきっと、今、この世界で一番の幸せ者だ。そう確信を持ちながら私は及川君と手を繋いで歩き出した。
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