04
試合の日、私は家に帰りすぐ絵の制作をはじめた。次の日も美術室で製作を続けた。優季ちゃんに聞いた話だとあの後も順調に青城はストレートで勝ったらしい。また及川君のサーブを見たい。あと岩泉君との連携も見たい。バレーのルールとかわかるわけじゃ無いけど、及川君達のプレーは見入ってしまう何かがあると思う。
また次の日も製作を続ける。今頃、及川君は練習頑張っているんだろうななんて思うと少し嬉しい。私も頑張ろう。絵を描いていると午後五時を過ぎた。美術室にはまだ外の光が入ってくる。けれど少し暗くなってきたので明かりをつけて、また絵を描き始める。外から運動部の声とか、吹奏楽部の楽器の声とかたくさん聞こえてくる。その中で上履きで床を蹴る音がした。それは徐々にこちらに向かってくるようだった。誰だろう。及川君は練習してるから違うよね。そんなふうに考えていると美術室の扉が開いた。
「あ、優季ちゃん。どしたの?」
「……あのね」
優季ちゃんの様子がいつもと違う。顔が赤くて動揺している感じだ。
「さっき岩泉と会ったんだけど」
「うん」
優季ちゃんは俯いて小さく唇を開く。
「告白、された」
その言葉を聞いた時、私の手から筆が落ちた。水色の絵の具が床に飛び散る。
「っおめでとう!」
自分のことでも無いのにすごく嬉しかった。優季ちゃんは顔をあげて笑った。
「嬉しすぎて、どうしよ。やっと片思いが実って嬉しすぎ……」
優季ちゃんの岩泉君への思いが報われたのは嬉しいが、その反面羨ましいと私は感じた。私も及川君と、なんて思った。そんな私に気付いたのか「名前も頑張って、応援してる」と優季ちゃんは言ってくれた。いつか私も優季ちゃんみたいに報われるのだろうか。人気者の及川君が私を見てくれる可能性は低そうだ。けど頑張ろう。
 
それから私達は暫く話した。床に飛び散った水色の絵の具を拭いて、また絵を描く。気付くともう七時になっていてそとは真っ暗だった。
「もうそろそろ帰らないと……一緒に帰ろっか」
「うんわかった。私、教室に鞄とか置いてあるから名前ここで待ってて」
「わかった、待ってる」
優季ちゃんは美術室の扉を開けて廊下へと走っていった。私も絵の具とか片付けないと。パレットを洗いに美術室に設置されている水道場へと向かう。蛇口を捻り、絵の具を落としていく。美術室には水の音だけが響いた。あとどんくらいで絵、完成するかな、なんて考えながら洗う。描き終わったら及川君に見せたいな。というか今、会いたい。及川君に会えないと寂しいし。バレー部はもう終わったかな。一人、考えていると廊下から足音が聞こえてきた。優季ちゃんにしては早い気がする。その足音は美術室の扉の前で止まった。そしてコンコン、と扉を叩く音がした。もしかして及川君かな。
「はい、何ですか。入っても大丈夫ですよ」
まだ及川君と決まってはいないけれども少しばかり期待を含んで、私の声は上擦っていた。すぐに美術室の扉は開く。そこには期待していた通り、及川君がいた。
「これ洗うからちょっと待っててくれる?」
「あ、う、うん」
いつもより及川君が静かな気がする。及川君はいつものように椅子を引っ張って私がさっきまで絵を描いていた近くに腰をおろす。私は急いでパレットを洗い、道具を片付ける。それらを終えると私は及川君の近くに座る。
「どうしたの?及川君」
「昨日、試合来てくれありがとう。……俺、どうだった」
そう言われて、この間の会話が思いだされる。かっこいいって思ってくれたら、と言われた時を思いだす。及川君に触れられたときの熱さとか、赤くなった顔とかも同時に思いだし、私の顔が熱くなる。
「……今、及川君のこと描いてるんだ」
「っ、そっか」
及川君は前と同じように赤くなって俯く。そしてゆっくり立ち上がって座っている私を見て口を開く。
「それってかっこよかったってことで良いの?」
無言で私はうなずいてそのまま下を向いた。恥ずかしくて、告白しているみたい。
「良かった……そう思ってくれて」
及川君は安心したように胸を撫で下ろす。
「ねえ、こっち向いてよ」
及川君に言われて上を向く。絶対、顔赤い。恥ずかしい。
「苗字ちゃん、伝えたいことがあるんだ」
及川君はそこまで言って赤くなって黙った。そして静かな時間が流れる。まるで世界に私達しかいないみたいだった。及川君は暫くして唇を開いた。
「俺、苗字ちゃんのこと」
及川君が言いかけた瞬間、美術室の扉が唐突に開いた。開いた音は大きくなかったものの私達はどきりとして、そちらに目をやる。そこには優季ちゃんが立っていた。優季ちゃんは私達の顔を見比べると申し訳無さそうに眉を下げた。
「えっと、ごめん!私、先に帰るね!」
優季ちゃんはすぐに扉を閉めると行ってしまった。廊下を蹴る音が聞こえた。
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