02
及川君はあの日から美術室に来ていない。まあ、来ないことが普通なんだけれど。会えない時間は少し辛く思った。及川君の姿を見るたびに甘い気持ちになった。気付くと頬が赤くなっていた。そして放課後になると私はいつものように美術室にこもって絵を描いていた。美術室の静かな空間も好きだけれども及川君がいたあの空間も好きだ。美術室にいると余計に及川君が思い出されて、絵に集中できない。
「たまには気分転換でスケッチでもしよ」
私は絵に集中するためにスケッチブックと鉛筆を持って、美術室の外に出る。外はけっこう騒がしくて、新鮮に思えた。どこで描こう。
「あ、名前!今日は美術部お休みなの?」
廊下でうろちょろしていると友達の優季ちゃんに声をかけられた。私がいつも美術室にこもってるから美術部休みだと思ってるのかな。
「今、美術部の活動中だよ。描きたいものを探してるんだ」
「じゃあ私描いてよ」
「え」
「探してる時間がもったいないよ!ほら描いて!」
「え、う、うん」
完全に思い付きで優季ちゃんは言っている。私は優季ちゃんの言うことに流されてそのまま頷いてしまう。
「やったー!名前に描いてもらえる!どこで描くの?」
「えっと、じゃあ美術室で」
結局、美術室に戻ることになっちゃったけれどまあ良いか。優季ちゃんが嬉しそうにしてるから気にしないことにしよう。優季ちゃんは楽しそうに鼻歌を歌っていた。そしてそのまま美術室に向かって歩いていった。
美術室に着くと優季ちゃんはそこらへんから椅子を引っ張ってきて座る。
「どういうポーズが良い?」
「とくにリクエストとかは無いけど……笑顔が描くの楽しいから笑ってほしいかな」
私はいつも座っている椅子に座る。そしてスケッチブックに鉛筆で描いていく。本当、笑顔って描くの楽しいな。いつか及川君の笑顔もスケッチしてみたい。絶対、かっこいいんだろうな。そんなこと考えながら描いてると優季ちゃんは口を開く。
「ねえ名前って及川のこと好きでしょ」
さっきの可愛らしい笑顔とは違う笑みを浮かべてきた。
「え、どういうことデスカ」
「目そらさないでよー誰にも言わないって!見ればわかるよ、名前が及川好きだって」
そう言われて頬が熱くなるのを感じた。そんなに私わかりやすかったのだろうか。
「及川君のこと好き、だよ。見ればわかるって他の子にもばれてるかなあ……」
「名前は静かだから大丈夫じゃない?目で追いかけてるくらいだし。あーあれだすれちがうときとか、及川が女の子に囲まれてるとき見てる」
鉛筆を持つ手が震える。そのままスケッチブックで顔を隠す。恥ずかしすぎる。そんなばればれだったとは。他の子にばれなければ良いんだけど。
「絶対、誰にも言わないでね?」
「まあ名前って及川と仲良いし及川を好きってばれたら色々やばそうだよねー友達をそんな落としいれるつもりないから言わないよ」
優季ちゃんは笑い声をあげながら言う。
「じゃあスケッチの続き、お願い!」
「う、うん……」
優季ちゃんは元の笑顔を作ると喋るのを止めた。真剣に描いて10分程経った。優季ちゃんは飽きてきたのかまた喋り始める。
「及川も名前のこと好きだと思うよ?だって及川たまにここ来てるじゃん。あいつ自分からは行かないよ。岩泉とばっかいるし。けど及川来てくれるってことは名前が好きってことなんじゃないの」
「それは、無いよ。及川君は私のこと女子の中の一人としか思ってなさそうだし」
自分で言っておきながら少し寂しく感じた。及川君との会話のなかに少しの期待もあるのだけれど、それでも私は彼の一番になんてなれない。
「もっと自分に自信もちなよ。クラスの女子なんて目が合うくらいで騒いでんだから」
「そうは言っても……そんなこと言う優季ちゃんは好きな人とかどうなの?」
及川君の話ばかりしていると全く集中できない。話を変えるために反対に優季ちゃんに聞いてみる。少し恥ずかしがるかなと思ったのだがそんなこと全く無く平然と優季ちゃんは答える。
「ん?私?岩泉」
「それ、本当に?」
「うん」
優季ちゃんは笑顔で頷く。ほんのりと頬が赤みを帯びている。可愛らしい表情だと思った。普段の優季ちゃんはこんな表情をしない。岩泉君のこと本当に好きなんだな。きっと岩泉君と話すときもこんな表情なんだろうな。
「優季ちゃんって岩泉君とそんな関わりあったっけ?クラス違うよね」
「岩泉とは中学から同じだから話すよ。けっこう面白くて良いやつだよ。中学んときからずっと片思いしてる。……及川が岩泉と一緒にいたいと思うのがなんとなくわかる。それに岩泉ってバレーやってるときすっごいかっこいいじゃん」
岩泉君のことを話す優季ちゃんはとても楽しそうだ。しかし少し寂しそうな顔をして、また話し始める。
「けど、岩泉って私のこと女子って思ってなさそうなんだよね」
「私のこと自信無いって言うけど優季ちゃんだって自信無さすぎるよ!岩泉君のこと良く知らないけど優季ちゃんは良い子だし大丈夫だよ!」
「私も名前も自分のことになると自信無くなっちゃうよねーあー岩泉がバレーしてるの見たい」
優季ちゃんは伸びをして足を動かし始める。
「ちょっ優季ちゃん、スケッチしてるのに動きすぎだよ!それと、今度の日曜日に練習試合あるって及川君が言ってたんだけど見にいく?」
岩泉君がバレーしてるのも見れるだろう。優季ちゃんが良ければ一緒に行きたいな。
「本当に?行きたい!一緒に行こうよ!」
優季ちゃんは立ち上がると目を輝かせて言った。
「うん、じゃあ予定はあとで立てようか。とりあえず今は優季ちゃんを描き終えたいから……」
「ごめん、また動いて!さあ描いて!」
優季ちゃんはまた元通りになる。やっぱり笑顔は良いな。特に優季ちゃんの笑顔は眩しい。岩泉君だってきっと、この笑顔を眩しいと思っているはずだ。
私も及川君にそう思われていたらいいのにな。
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