01
今日も一人、美術室で絵を描く。静かな美術室は集中できる。外の喧騒の中で描くのも新鮮で楽しいのだけれど。キャンバスに色をつけていく。ああ、楽しいな。あと少しでこの絵も完成だ。
「よしっ……頑張ろう」
そんなふうに呟いて、私は筆を走らせていく。すると美術室の扉からコンコンと音が鳴る。誰かが来た。この時間に人が来るのは珍しいと思いながら「はい、何ですか。入っても大丈夫ですよ」と扉に背を向けたままこたえる。扉が開く音がして、男の子の声がした。
「やっほ、苗字ちゃん」
この声は及川君か。
「久しぶり。及川君」
及川君が来てくれたことに嬉しく思いながらもそれを押さえるように、声も押さえて返事をする。及川君は美術室の椅子を適当に引っ張ってきて私の隣に座る。
「今日はバレー部お休みなの?」
「そうだよ。今日は体育館が使えないらしくて。あーバレーしたい」
及川君は伸びをしながら言う。本当、バレー好きなんだな。
「何の絵描いてるの?」
「うーん……当ててみて」
「えっ、うー……水色が多いから」
考え出す及川君。抽象画だからわかんないと思うな。だから間違っていても気にしないからそこまで考えなくてもと思いつつ私の絵をそこまで熱心に見て考えてくれるのは嬉しい。
「じゃあ空、とか」
「けっこう良い線いってるかな。えっとね、これ及川君達のバレー部イメージして描いたの」
私が言うと、及川君は嬉しそうに声をあげる。
「え、本当!嬉しい!」
そんな嬉しそうに言われると少し恥ずかしくも感じてしまう。
「この間の練習試合見て描きたくなったんだ。すごく皆、かっこよかったから」
手を止めて及川君に笑いかける。本当は及川君が一番かっこよかったっと言いたい。けれどもそんなことを言えるはずが無かった。
「え、苗字ちゃん来てたの?」
「うん。はじっこでずっと見てた。及川君のサーブとか岩泉君との連携とかすごくかっこよかった」
「見てもらえてすごい嬉しい」
本当に、及川君は幸せそうに笑うなあ。目を細めて、人懐こく笑う。この表情を見ているのが今、私だけで本当に幸せだ。
「今度の試合も来てよ。苗字ちゃんが、嫌じゃなければ」
及川君は私の太股に手を重ねて、顔を近付けてそう言う。顔が赤くなるのを感じて、鼓動が速まる。
「……うん、もちろん」
私は頷いて言う。及川君はじっと私の目を見つめたまま離さなかった。
「今度の試合は次の日曜日に○○体育館で10時からあるから、良ければ来て」
及川君の手の温度をスカート越しに太股に感じる。そこから熱が出ているかのように私の体は熱い。
「それでさ、その試合見て……俺のこと描いてくれたら、嬉しい。その、かっこよく思ってくれたら」
いつもは饒舌な及川君がしどろもどろになりながら、顔を赤くして伝えてくれるのが嬉しくて。及川君が愛おしく感じた。
「苗字ちゃんが描きたいって思ったらで良いから」
皆、かっこよかったから描きたくなったって言うのを聞いてそう及川君は言ってくれているのかな。そうだったら、それはとても嬉しい。及川君にとったら私なんて、たくさんの女の子のなかの一人にすぎないのだろう。それでも及川君がそんなふうに言ってくれるのは嬉しい。少しくらい期待をしても良いんだよね……。
「うん、絶対その試合見にいくね。楽しみに、してる」
緊張して少し上擦ったような声が出る。及川君は顔を赤くしたまま笑みを浮かべる。ああ、綺麗な笑顔だ。及川君は太股から手を離すと立ち上がる。
「俺、バレーしてくる!」
「えっ、体育館って使用できないんじゃないの?」
「外でやってくる。こんどの試合に苗字ちゃんが来てくれるんならもっと頑張らなくちゃ」
及川君はそう言うと美術室の扉を開けて出て行ってしまった。
「頑張ってね……」
小さく呟いて、私はまたキャンバスに色を付けていく。早く描きあげよう。及川君の絵を描きたい。
結局、私は外が真っ暗になるまで学校に残って絵を完成させた。
次の日曜日が楽しみでたまらない。
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