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俺は会うたびに彼女のことが好きになっていった。たくさん会いたい。話したい。そんな欲望と共に彼女にも俺を好きになってほしいという気持ちが芽生えていった。苗字ちゃんが俺のことを嫌っていないことはわかっていた。会うと笑ってくれて、楽しそうにしてくれていたから。しかし好きという恋愛感情にまで発展しているかがわからなかった。だから俺は彼女を試すようなことをしようとしてしまった。

確か、1年生のころの学園祭のちょっと前。学園祭の前は文化部のステージ発表のリハーサルがあるということで1つの体育館が使えなかったのだ。だからバレー部とかバスケ部は残った体育館を順番に使用していた。その日は丁度、体育館が使えない日だった。だから美術室へと行った。苗字ちゃんはいつものように美術室にいて絵を書いていた。学園祭に展示をするらしい。
そして俺は彼女を試した。それはある意味、賭けのようなもので怖かった。だからいつものように椅子を出さず立ったままにした。いつでもそこから出ていけるように。よくよく考えればけっこう情けないやつだ。
「俺、今日、告白された」
たまに彼女に報告すること。もちろん今回は嘘だった。
「また?良かったね」
そう、いつも通りの彼女の返答。好きなら、きっとここで少しは表情を変えると思う。けど彼女は表情を変えないのだ。俺のことが、好きでは無いのだろうか。それともいつも言われることに慣れてしまっているのか。
「ありがと」
少しは嫌な顔をしてほしいよ。俺は自然と視線が下がって頬が強張った。けどそれを悟られるものかと軽い感じで返す。そして俺は今回の賭けをするのだ。ここで何の反応も無かったらきっと完全に脈無し。
「苗字ちゃん、俺ね今回の子とは付き合うんだ」
いつもここでは「付き合わないけどねー」なんてふざけて言うのに今回は違う。その瞬間、彼女の表情が固くなる。さっきまで笑っていた彼女の口角が下がる。
「そ、っか。おめでとう」
言葉につまりつつも苗字ちゃんは無理に笑おうとしているのがわかった。辛そうな顔。だけど、それなのに俺のなかではその顔に対して喜ぶ自分がいた。好きな人の辛そうな顔を見て喜ぶなんて歪んでいるとは思う。けどそれで確かめられることがあったのだ。彼女が俺のことを好きかもしれないということ。それだけで俺は喜べる。しかし彼女がそんな辛そうな顔しているのに祝いの言葉を述べるのが嫌であった。もっと嫌って表面に出してよ。
「その子は女の子らしい可愛い子なんだ。好きなことに対して熱心で」
俺はわざと苗字ちゃんのことを言う。自分に似た人、と思わないかもしれないけどもし少しでも思ったなら嫉妬をしてほしい。汚い感情なんてわかってる。我侭で子供のような感情だって。
「もう、わかった、から」
そしてついに彼女からは嫌悪感、嫉妬という感情が見えた。最悪だけど、これを喜ばずにいられなかった。だって好きな女の子が嫉妬してくれるなら嬉しいでしょう?つい頬が緩んでしまう。嬉しくて、けど辛そうな彼女の前で長々と嬉しそうにすることはできなかった。俺の賭けは勝ったというか成功に終わったのだ。
「そっか、じゃあ俺もう帰るね。絵、頑張って」
俺はそう言うとそのまま美術室を出て行った。最低な試し方だって自分でもわかっている。それでも俺は彼女が俺のことをそういう目で見ているかということが気になったのだ。大好きだから。
彼女を傷つけてしまったかもしれない。それは彼女にちゃんと謝ろう。大好きな人を傷つけたままにするのは嫌だから。けど今だけは許してほしい。こんなにも好きで、好きでたまらないから。子供っぽくてごめん。苗字ちゃんのこと好きすぎるだけだから。
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