08
「あつーい!」
そう言って美術室の扉を開けたのは優季ちゃん。急に開けるものだから驚く。
「名前は毎日、美術室通って絵好きだね」
「そういう優季ちゃんも毎日学校来てるじゃん。そういえば部活入ってないのになんで?」
「あー、まあ色々あるんだよ。補習じゃないからね?」
優季ちゃんが言葉を濁したから補習かと思ったがそうじゃないらしい。優季ちゃん勉強できるから補習なんてことは無いよねやっぱり。
「美術室はやっぱり涼しくて最高。どこの教室も暑くて暑くて」
「あ、そうだ。優季ちゃん、及川って人知ってる?」
「ん?知ってるけど」
優季ちゃんは少し眉を顰めて嫌そうな顔をする。及川君のこと嫌いなのだろうか。
「あの人どんな人?」
「え、名前好きなの?」
「いや、今日初対面で、嫌な思いさせられたよ」
思いだすだけで少しいらつく。しかしサーブもどうじに思いだされる。
「なんだー及川って顔だけは良いから……及川はバレーがめっちゃ上手い。そして女の子にももてる。頭の良さは知らないけど」
「悪い人なの?」
「さあ……じゃあ私、もう帰るねー」
「え、今日は早いね」
「用事あんだ。じゃあね」
優季ちゃんは美術室にきて短い間喋るとすぐ帰ってしまった。そしてまた私は一人になった。一人で絵を描いているとどんどん眠くなってきた。さっき及川君と喋ったり外でて疲れたせいだ、なんて思う。少し寝よう。私は机につっぷして眠りについた。

「うわーすごい上手いね」
「んぅ……んっ!?」
私は起きたとき自分の目の前の光景に目を疑った。
「おはよー」
へらへらと笑う及川君が私のつっぷす机の反対側にいた。その手にはスケッチブック。
「返してください!」
「ん、やだ」
及川君は私の願いを一瞬で却下するとぱらぱらとページを捲り始める。
「やめて!」
私は立ち上がって及川君のほうへと行く。及川君は立ち上がって、あるページを見つけると手を止める。
「これ、俺?」
「え、ち、がい……ます」
私が描いた及川君のページを見られた。思わず目をそらす。
「違わないでしょ。あ、それと同学年でしょ?タメ口で良いよ。岩ちゃんのお友達だし」
タメ口とか今はどうでもいい。早くスケッチブックを返してほしい。なのに及川君はずっと見ている。
「すごい上手いね。こんなかっこよく描いてくれてありがと」
及川君は嬉しそうに笑った。
「もう、飽きましたか?返してください……」
「これ貰っていい?」
「え?いや、返してください」
「えーこんなかっこよく描いてもらったら貰いたいんだけど」
ものすごく面倒な人だ。自分がもてるからって誰にでもそういう態度をしたら駄目なんだから。
「ね、お願い」
多分、この人は了承するまで引き下がらない。
「……良いですよ」
私は溜息をつきながらそう言うと及川君はスケッチブックのそのページを綺麗に切り取る。綺麗な指だなんて思わずみとれる。及川君は切り取ったその絵をまた見て胸に抱える。そして嬉しそうに笑う。
「えへへ、ありがと。大切にする」
何、その笑顔。本当に嬉しそうな笑顔。へらへらした笑顔じゃない。綺麗。思わず言葉に詰まる。
「……っ貰ったら帰ってください」
「冷たいなー。あ、それとタメ口ね」
「さようなら!」
無理矢理会話を終わらせようとめったに出さない大声を出す。そうすると及川君はまた笑った。馬鹿にされているようにしか感じない。
「またね、苗字ちゃん」
及川君は体育館で女の子達にやっていたように手をふり、へらへらとした笑顔で帰っていく。またね、ってどういうこと。もう及川君と話すのやめよう。怖いし。それに何で名前しってるんだろうか。
「本当、疲れた」
時計を見ると十二時を過ぎていた。私、少し休むつもりがけっこう寝てたんだ。けどまた疲れたからもう少し寝よう。
私はまた机に突っ伏す。目を閉じたとき、さっきの及川君の笑顔が瞼の裏にちらついた。
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