06
付き合い始めてから及川君は私との時間を多くしてくれた。お昼も帰るときも。それは幸せで、及川君も楽しそうだ。けど及川君は岩泉君といるほうが楽しそうだと思った。一番、自然体でいるしよく笑うし。
「ねえ及川君、私はこうやって及川君と帰るのは楽しいけど及川君は岩泉君達といるほうが楽しいと思う。だから岩泉君達と一緒にご飯食べたり帰って良いんだよ。私に気を使わなくても全然大丈夫だから、ね?」
だから帰り道にそんなことを聞いてみた。別に私を選んでなんて思わない。だって及川君が楽しそうにしているのを見るのも私は幸せだ。及川君は私の言葉を聞くと、驚いたような悲しそうないつもの顔とは違う複雑な表情をする。
「俺、苗字ちゃんといるときつまんなそうだった?」
「え?違う、そうじゃなくて。岩泉君達といるほうが及川君、自然体だなって」
私がそう言うと及川君は顔を隠しながらそっぽを向いた。
「……あー、多分、俺、緊張しちゃってるのかも」
及川君はそう言って、また言葉を続ける。正直、いつも皆の前で笑って話している及川君から緊張なんて言葉を聞くとは思わなくて少し驚く。
「苗字ちゃんのこと好きすぎて、緊張しちゃう。……それに好きな人の前でかっこ悪いところ見せれないし。だからあんまり表情固くなっちゃうかも」
及川君はそっぽを向いたままそう言った。私は何も返せなかった。恥ずかしいのもあるけど何よりそんな思われていたことが嬉しかった。街灯に照らされた及川君の耳は赤くなっていた。それを見た、私も赤くなる。
「私は岩泉君達といる及川君も充分かっこいいと思うし、好き。だから別にかっこ悪いとか気にしないでほしい」
何か返さなければと思って口をついて出た言葉はそんな言葉。本音だけど恥ずかしすぎる。何、私言ってんだろうなんてことも思ったりする。
「苗字ちゃんありがと。けどこれからも緊張して上手く話せないことあるかも。だけど苗字ちゃんといるのはすごい楽しいし幸せってことはわかってほしい」
「そっか」
私も徐々に及川君とは反対方向のどこかを見つめる。今、及川君を見たら恥ずかしさでどうにかなりそう。
「苗字ちゃんは俺といると楽しい?」
私は頷いて「及川君と同じ気持ちだよ」と答えた。及川君と同じ気持ち、とか少し図々しかったかな、と思いつつもそれが本心で同じ気持ちを共有するのは幸せだから私はその言葉を取り消さずにいた。
「苗字ちゃん、こっち向いて」
「今、顔が、赤いから」
「俺も同じだから大丈夫」
私が及川君のほうをゆっくり向くと及川君の頬が赤く染まっていた。同じ。
「可愛い。大好き」
及川君はそう言って頬にキスをしてくる前のあの優しい笑顔で笑った。そして顔を近付けてきた。私は目を閉じて及川君を受け入れる。今度は唇に及川君の唇が触れる。優しいキス。暫く唇の感触を味わうように、触れ合わせる。そして離すと及川君は照れくさそうに笑った。
「幸せすぎ」
「私も、だよ」
恥ずかしくて俯いてしまう。けど本当に幸せなんだ。及川君は私といて幸せなんて言うけど私は及川君がこうやって隣にいてくれるから幸せなんだ。全部、及川君のおかげなんだ。
好きだよ。及川君。私を幸せにしているのは自分だって、気付いている?
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