面白いと思ったけどさ


「王様と苗字さんって付き合ってるの」
こんな僕の一言から二人の喧嘩は始まった。
僕がそれを言うまで文句を言いながらも二人とも大人しく勉強をしていたのだが、喧嘩し始めてしまった。言わなきゃよかったと少し後悔したが、二人の喧嘩はけっこう面白かったので傍観しておいた。
影山は王様で顔が整っている。まあ白目向いてるからもてないけど。苗字さんは良い人なんだけど影山に対して気が強くって女王様みたいで綺麗な子だ。こっちもところかまわず寝る人だからもてないけど。
けっこうお似合いだと思う。本人達にそれを言ったら怒りの矛先がこちらに向きそうだから言わないが。まあ怒るってことはお互い意識してるんだろう。
それはそうと二人の喧嘩は白熱していた。二人とも立ち上がっている。
「別に、影山のこと好きじゃないし!」
苗字さんは顔を赤くしながらそう言う。
「俺も別に、好きじゃねえ、し」
影山も赤くなりながら言う。影山は好きな子に好きじゃないと言うことがあまり気が進まなかったようで少しつっかえながら言う。二人とも素直じゃないななんて思ってると少しだけ苗字さんが悲しそうな顔をする。好きじゃないって言われたのが嫌だったのだろうか。
「まあ影山は私のこと、嫌いだもんね。私も私で影山のこと嫌いって言っちゃうし……」
「は?別に、嫌いとは言ってねえだろ」
影山が反論して苗字さんのほうを見ると影山の好きな苗字さんは眉をさげて、泣きそうな感じだ。影山がそれを見て戸惑ったように身体を強張らせるのがわかった。
これは泣いちゃうんじゃないか、それは面倒だ。面白いものが見れそうだけど。
「え、あ、苗字」
「別に嫌いなら嫌いって言えばいいじゃん……」
どんどん声が弱々しくなっていく苗字さん。それを見てうろたえる王様。
そしてついに苗字さんの目からは涙が落ちた。それが堰を切って、どんどん涙が出ている。唇をぎゅっと結んで止まらせようとしているようだが止まらない。
僕のほうを王様は見て助けを求めているようだった。面白い。
「あーあ、王様、泣かせちゃった」
僕が棒読みで言うと一層、影山は顔に焦りを浮かべる。
「俺、お前のこと嫌いじゃないから!」
「…………」
無視されればまた僕に助けを求めるような視線を向ける。だからノートの隅に好きって言えば、と書く。それを見るとノートと僕に視線を行ったりきたりさせる。僕に大丈夫か?みたいに不安そうな視線を向けるから親指を立ててグーサインをする。影山は少し戸惑ったようにする。しかし苗字さんを真剣そうな顔で見る。本当に告白するつもりなんだろうか。
「苗字、こっち向いて」
「嫌」
「いいから」
王様は苗字さんの頬を両手で挟むと無理矢理上を向かせる。二人とも立ち上がっているから上を向いてしまった苗字さんの顔は見れないけど泣いているから涙が頬にはあるだろうし顔は赤いんだろう。好きな子のそんな顔みて影山は大丈夫なのだろうか。
影山は一瞬、顔を赤くさせて恥ずかしそうにする。しかしすぐにちゃんと真っ直ぐと彼女を見つめる。
「俺、苗字のこと好きだからな!」
「好きじゃないって……」
「……好きっていうのが恥ずかしいからに決まってんだろ、ボゲ」
女の子に対してそんな暴言吐くとか王様ってなんなんだろうと僕は思ったが苗字さんは少し嬉しそうな笑い声をあげた。
「苗字は俺のこと、」
「好き」
苗字さんにそう言われると影山は嬉しそうに顔を赤くして頬を緩めた。甘ったるい顔。
そして苗字さんの頬に唇が本当に触れるだけのキスをした。
「写真、撮ればよかったかな……」
僕が小さく呟くと二人は僕のほうを見て驚いたような顔をした。あ、僕がいること忘れてたんだ。影山は先程、僕に助けを求めてきたくせに。二人はすぐに距離をとると大人しく座った。顔を赤くしたままで。
「君達さ、僕の前で散々、いちゃついてさ」
「いちゃついてなんかない!」
「別に影山が勝手に……」
「お前、泣いただろ!」
「はぁ?」
また喧嘩になりそうだったのでノートで机を叩くと二人とも静かにした。
「じゃあ勉強再開しようか」
僕が笑顔で言うと二人とも小さく頷いた。
そういえば、王様と苗字さんは付き合うのだろうか。さっき好きとかしか言ってなかったけど。ノートに向けた視線を二人に向けるとさっきより距離が近くなっていた。無自覚にいちゃついてるのか、これは……。
つい溜息がもれると「どうした」と聞かれる。
「何でもない」
理由はある。二人に言ったら多分また喧嘩が起こりそうなので言えないけど。
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