好きあう日


「赤葦君、これ」
クラスの女子、苗字から差し出されたのは可愛らしくラッピングされたもの。
「……?」
それを見て、何かわからないでいると「はあ、赤葦君ってこういうの興味無いのか」と溜息をつかれてしまった。
「バレンタイン」
苗字はそう言うと、俺にそれを押し付ける。
バレンタインは明日、土曜日だったしそこまで重要な行事でも無いから完全に忘れていた。女子からすれば大切なんだろう。友達にあげたり、好きな人にあげたり、義理チョコだったり。
「はい、貰って」
胸に押しつけられてありがたくそれを受け取る。義理チョコだとしてもチョコレートは好きなほうであるから嬉しい。
「ありがとう」
俺はそれだけ言ってそれを貰う。苗字は何か言いたげだった。口をもごもごと動かして視線が泳いでいる。
「どうしたの?」
「え、あ、何でもない」
苗字は赤くなりなってうつむいた。
そのときヒラリと何かが手から、というよりチョコの包装から落ちた。
「あっ」
苗字が一瞬声をあげると同時に俺はそれを拾いあげる。
「……」
そこにはきれいな字で好き、と書かれていた。俺はそのメッセージにあった視線を彼女のほうに向ける。赤くなって、唇が震えていた。
「あ、あの迷惑とかならご、めん」
苗字はそう言うと回れ右をして俺と反対側に走り出す。
「待って」
反射的に俺は彼女の腕に手を伸ばし、掴んでいた。自分に彼女を思う気持ちはさほど大きいわけではないが自分を思ってくれる子。そんな子が思いを伝えてくれたのは嬉しい。だからこそ長々と期待を持たせては駄目だ。
だから俺は彼女を引き止めた。
苗字は振り返った。
急に立ち止まったせいで髪がふわっと浮いていた。その間から見える赤く染まっている頬と少し潤んだようにこちらを見上げる目、震えている唇……。
なぜだか全てが美しく、かわいらしく見えた。不覚にも胸が高鳴った。
じっと彼女を見つめると恥ずかしいのかふっと目を逸らされる。
「あのさ、返事だけど」
声が若干震えていたのが自分でもわかった。
「今は付き合えない」
苗字の顔が一瞬にして曇る。
「けどこれから絶対、好きになるからそのときまで近くにいてほしい」
彼女は目を大きく開いた。
そして嬉しそうな笑みをした。
かわいい、好きかも。やっぱり付き合えば良かった。なんて思った。
「うん、待ってる」
きっと付き合えるのもそう遠い未来でない。
彼女のかわいらしい笑顔を見てそう思った。
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