冷たい指先の待ちぼうけ


「今日、最高気温3℃だって」
私が震えながら帰り道そんなことを言ってみた。冬の日はとても寒い。寒いから温かいものがあればとても嬉しい。それなのに私は手袋を学校に置いてくるということをしでかした。隣の月島君はコートにマフラーに手袋に帽子……羨ましい。
「最低気温は-2℃でしょ」
月島君はそう言って「手袋忘れるなんてまぬけだね」と良い笑顔で言った。
「うぅ……しょうがないじゃん。たまにしか忘れてないし!」
私はそう言うと手をコートのポケットにいれる。手袋があれば良かったのに。
「寒い……寄り道しようよ」
「は?嫌なんだけど……早く帰りたい」
「良いじゃん、肉まん買って温まって帰ろうよ」
月島君ははぁ、と小さく息を吐く。寒さのせいで息が白い。
「肉まんだけだからね。っていうか苗字さ、最近食べすぎ。太るよ?」
月島君が冷たい視線を向けてくる。ばれていたのか、私は唇の端を引き攣らせながら「ははは……」と適当に笑っておく。
「じゃあコンビニ行こう!月島君って坂ノ下あんま好きじゃないでしょ」
「嫌いじゃないけど君といると何か言われそうだから」
そういえば坂ノ下の店員の人、バレー部のコーチだもんね。別に私は何言われてもいいんだけどな。
「早く買って帰るよ」
「はーい」
月島君が早足になっているのに私がついていこうとする。すると何も無い道路でつまずく。
「あっ……」
転ぶ、けど手はポケットの中だし。顔絶対痛い。嫌だ。そんなことが頭の中でかけ巡る。しかしそれらは全て無くて、私は月島君の腕に支えられていた。
「ごめん!」
すぐ体勢を立て直して月島君の顔色を窺うと、不機嫌そうな顔をしていた。勝手に転んで支えてもらって月島君からしたら良い迷惑だ。とりあえず頭を下げると「まぬけ」と一言言われる。そして次は「少し重くなった」と言う。
「すみません……痩せます」
目を逸らしながらそう謝る。そしてまた手をポケットにいれたまま歩き出す。すると月島君が立ち止まる。
「どうしたの?」
私が月島君のほうを見上げると月島君は片方の手袋を外す。そして私に無言で差し出す。
「え?」
「つけて」
有無を言わさないような感じでそんなことを月島君は言う。
「は、はい」
月島君に貸してもらった手袋をつけるとやっぱり手の大きさが違うのか緩かった。そして温かかった。
「何か、こういうの良いね。恋人って感じ」
つい口元が緩んでしまう。まさか月島君がこんなことをしてくれるとは。けどもう片方の手はどうするんだろう。
「こっちの手は?」
私が手袋を付けてないほうの手をふると月島君がその手を手袋を付けてないほうの手で掴む。
「苗字って何も無いところで転ぶから僕が支える。手、ポケットにいれちゃ危ないから」
少し強引に手を繋がれたのだけど温かくて、突然の優しさに嬉しくなる。
「ありがと」
title:fynch

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