長く伸びるひとつの影


影山君と付き合うようになって初めて一緒に帰る。部活動の関係上、一緒に帰るのはできなくって今日は二人とも部活動が無いから初めて一緒に帰れるのだ。だからとても嬉しかった。
「影山君、初めてだねー一緒に帰れるの」
「う、うっす」
それなのに影山君は緊張しているのか、素っ気無い返事しか返ってこない。せっかく影をふたつ並べて帰れているのに。女の子からしたら最高のシュチュエーションだ。しかも隣には大好きな影山君がいる。
「緊張しなくて良いからね?」
「緊張、してない……」
嘘つけ!緊張してるじゃん、と言いたいところなのだが影山君の頬は夕日に照らされているからではなくて、赤くなっていた。そんなの見たら、からかう言葉なんてでない。私も一緒に赤くなって緊張してしまう。
「苗字は緊張してないのかよ」
「うぇっ、わ、私?」
緊張してたせいで影山君から声をかけられると変な声が出る。影山君から話し始めるとは思わなかった。丁度、話題を考えていたのに。
「影山君のうつった、けど影山君よりはましかも」
「何だそれ。俺、すっげえ緊張してるのに」
影山君は頬を赤くしながら私のほうをじっと見つめる。その顔がかっこよくて、綺麗で見つめあうと恥ずかしくて思わず目を逸らす。それが影山君は嫌だったみたいで頭の後ろに手をまわされてそのまま影山君のほうに向かされる。やっぱりかっこよくて、その顔を赤くさせているのが自分だと思うと恥ずかしい。また目を逸らそうとするにも、影山君に頭を固定されてしまっていてできない。
「苗字と二人きりで、帰り道で……緊張しないほうがおかしいだろ」
「え、そ、そうですね?」
私が曖昧な返事をすると影山君はいきなり抱きついてくる。
「どうしたの?!」
私が言うも、影山君は無言のまま。緊張、それと影山君から伝わる重みと体温。それら全てが私の心臓の音を速めていく。どきどきして、影山君と触れているところからこれが伝わってしまいそうだ。だから離れようとすると影山君はさっきより自分の身体に押し付けるようにする。顔が影山君の胸に当たるようなかたちになってしまう。
「すげえどきどきしてる、俺」
その言葉に対して出る言葉は無くて、ただ私も同じだと何かを共有しているような何だか甘い感じがした。影山君の胸に耳を当てると、確かに鼓動の音が耳に響く。私より速い鼓動。自分から抱きついてきたくせに、なんて少し可愛く思える。そして聞くと同時に自分の鼓動も速まるような気がした。影山君の速かった鼓動が、自分のもののような気がしていく。もうどっちの鼓動か、わからない。不意に影山君が抱き締めるのをやめる。影山君のほうを見上げると、顔を真っ赤に染めて目を細めて唇を開く。
「好き」
私も応えるように笑う。
「私も好き」
影山君は照れたように唇を軽く噛んだ。そしてゆっくりと顔を近付けてくる。
「目、閉じて」
目を閉じると抱き寄せられて、そのまま唇に唇が触れる。熱い。きっと今、私達の影は触れ合って、ひとつになっている。ふたつ並べて帰るのも最高のシュチュエーションだけどこれも最高だ。一度、唇を離すとまたもう一度触れる。そして私達はまたひとつの影を共有した。

title:きみのとなりで。

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