綺麗な人だと思った。木兎さんの隣で笑う女性は木兎さんのうるささにも嫌な顔を見せず笑っていた。それも綺麗な笑顔で。一つ一つの綺麗な仕草に俺は見とれてしまった。その視線に気付いたのか彼女は初対面だと言うのに一礼してきた。俺も急いで礼をする。すると彼女が何か木兎さんに言う。何を言ったのかわからないけど彼女と木兎さんは近付いてくる。
「どうしたんですか?」
俺が聞くと彼女は木兎さんに見せたような綺麗な笑顔で笑った。
「こんにちは、木兎さんの後輩ですごい人って聞いてる」
「え、そんなこと無いです……木兎さん何言ってるんですか」
木兎さんを睨むと目をそらされる。彼女は木兎さんの耳に顔を近づけ何か言うと頬を赤くする。少し羨ましいというか木兎さんに嫉妬をする。
「えっと、赤葦君だったよね?」
「はい、そうです」
「いつも木兎さんが話しているから覚えちゃった。聞くたびに話してみたいって思ってたから話せて嬉しいわ」
聞くたびにって、木兎さん俺のこと話しすぎじゃないか。それにこの人、木兎さんとたくさん話しているんだろう。そうじゃないと友人の後輩なんて覚えられないだろう。
「ありがとうございます」
俺は素直にお礼を言う。こんな綺麗な人に話してみたいなんて言われて喜ばない人はいないだろう。しかも俺は木兎さんからこの人のことを聞いたことなんて無くて初めて会ったのに話したいと思う。一目惚れというやつか。俺がそんなことを思いながらじっと彼女を見つめる。もっと近くで見つめたい。そんな欲求に駆られていると彼女が誰かに呼ばれる。「先輩!」と女の子の声が聞こえてそちらを彼女は見る。見ると「今、行くわ」と一言かける。そして俺のほうをもう一度見て、さっきまで見せていたなかで一番の笑顔をする。
「少しでも話せて嬉しかった。もう行かないといけないけど……また話したいな」
その言葉に固まる。彼女はそのまま手をふってスカートを揺らしながら走っていった。彼女の後ろ姿を見て改めて思う。好きだと。もっと知りたいと。後ろ姿をずっと目で追うと木兎さんはにやにやしながら話かけてくる。
「かわいいだろ」
「綺麗でした」
一目惚れなんてことは言わない。けれど木兎さんは多分わかってる。そして木兎さんは紙を渡してくる。そこには木兎さんの字でない綺麗な字が書かれていた。
「これ……」
「あいつが書いたんだよ。赤葦のこと好きだってよ?」
メールアドレスと名前、そしてメッセージが書かれた紙。つい嬉しくてにやける。
「あとは頑張れ!」
木兎さんはそう言って俺の肩を叩いてどっかに行ってしまった。俺はしばらく彼女の字を指先でなぞりどうしようもない恋心を抑えていた。

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