あなたの指に絡めた未来

「苗字ちゃん、一緒に帰ろう」
今日は付き合い始めて何度目かの一緒の帰り道。付き合い始めて丁度二週間が経つというのにまだ手すら繋いだことが無い俺達は今日、繋ごうと約束していた。
そして帰り道、人気が少なくなった頃合いを見計らい、手を彼女に差し出す。
「繋ご」
少し恥ずかしかったけど彼女は嬉しそうに頷いて俺の手をとった。
彼女は俺の手を見ると「及川の手も指も男らしいね」と笑った。
「まあそりゃあ男だし、バレーやってるし」
彼女は俺の右手を自分の左手と重ねる。そして目をぱちぱちとさせる。
「大きい」
彼女の手と自分の手が触れているのがとても嬉しい。そっけない態度をとっているけど内心はとても嬉しくて、恥ずかしくてしょうがないのだ。俺は自分の手を見ることができず視線を俺の手を見ている彼女の目を見る。俺を見る彼女の目はいつも輝いている。
嬉しいななんて思って少し頬が緩んで、頬がほんのり熱を帯びた。そのとき彼女が手に指を絡める。どきっとして下唇を噛む。
「及川とこうやって手を繋げるなんて前までは考えたことなかった」
苗字ちゃんは頬をほころばせてそう言った。
俺だって付き合えるなんて考えてなかった。告白は玉砕覚悟であった。だから今、付き合えている事実がとても嬉しいのだ。
「及川、私に好きって言ってくれてありがとうね」
急に苗字ちゃんはそんなことを言った。ありがとうと伝えるべきなのは自分だ。
好きと伝えたのは自己満足だった。もどかしい気持ちをばっさりと切ってもらえれば少しでも楽になれるだろうなんて思って伝えた。その気持ちが苗字ちゃんに伝わって、苗字ちゃんと同じで嬉しかった。告白したとき、正直、泣きそうだった。
それが少し思い出されて鼻の奥が少しだけつんとした。
「……苗字ちゃんもありがとう、俺と付き合ってくれて」
恥ずかしかったけど、苗字ちゃんに笑いながら言うと苗字ちゃんも恥ずかしそうに笑った。そのとき絡まった指がぎゅっとなった。
照れたような笑顔も恥ずかしいからかぎゅっと俺の指に絡む指もとても可愛かった。
ずっとこの先も、手を繋げたら良いななんて思った。
俺は自分の指に絡まった苗字ちゃんの薬指にキスをした。指は細くて、そこに守ってあげたいような気持ちにもなった。
苗字ちゃんは驚いたような顔で俺を見ていた。俺もするつもりは無かったのしてしまった。焦って目をそらす。ずっと一緒にいたいだなんて思って左手の薬指にキスするなんてかっこつけかよ。考えると恥ずかしくて顔がぶわっと熱くなっていく。
俺は絡めていた指を離して頭をがしがしと掻く。
「あー、ごめん。今の無し」
恥ずかしくて目を合わせられない。すると苗字ちゃんのふんわりとした笑い声が聞こえてきた。
「ありがとう」
苗字ちゃんは自分の薬指を眺めて嬉しそうに笑う。その笑顔にどきりとした。
「及川、すごいかっこいいよ。薬指なんてね」
いたずらっ子のように笑う苗字ちゃんは可愛いのだけれどもとても恥ずかしくてしょうがない。
「今の無しだって!無かったことにして!恥ずかしい……」
俺が恥ずかしがって嫌がると彼女は笑顔を変えないまま口を開く。
「嫌だよ。すごく嬉しいもん」
苗字ちゃんは俺のほうを上目遣いで見る。その目はやっぱり輝いていて、その目を見ると顔が熱くなった。
「及川、もう一回、手繋ごう」
「いいけど……」
彼女に手を差し出すと彼女はにこっと笑ってまた指を絡める。そして絡めたまま彼女は俺の薬指にキスをした。
「お返し」
笑う彼女は可愛かった。
「……ありがと」
頬がゆるゆるでにやけてしまいそうでつい俯いてしまう。
このままずっと手を繋いでいたい。二人の今も、未来も、二人の指に絡めて歩みたい。
「苗字ちゃん、ずっと手、繋いでいようね」
俺が言うと彼女は「当たり前じゃん」と言った。
「手、離したら許さないからね」
苗字ちゃんは明るい声で言った。俺もそれに張り合うように明るい声で言う。
「離すわけ無いでしょ、ずっと苗字ちゃんのこと好きでいるから」
そう言って苗字ちゃんに笑いかけた。
「ありがと、私も」
あやふやで不安定な約束だけど嬉しいものは嬉しかった。彼女に指に自分の指に絡めて、未来に思いを傾けてみた。

title:まばたき

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