冗談という名の愛言葉
「月島って何でイヤフォンつけねえの?」
前の席に座る苗字が急にそんなことを聞いてきた。別にヘッドフォンに理由があるわけでも無かったがいつも選ぶときは自然にヘッドフォンのほうに手が伸びていた。昔からの習慣というのもあるが多分、それは
「耳に突っ込むって不衛生っぽいから」
そう言うと苗字は驚いたような顔をして笑い出す。
「お前って綺麗好きっていうか、潔癖症?」
「君には関係無いでしょ」
自分より低い位置にある目を睨んでやるとまた苗字は笑う。
「けどヘッドフォンじゃさ、あの恋人でやることができねえじゃん」
「何それ」
「月島もてるのに知らないのかよ」
もてないけど恋愛の大先輩が教えてやるよ、と苗字は言うとポケットから音楽プレイヤーを取り出す。そしてそれにぐるぐるにまかれたイヤフォンコードを外しはじめる。イヤフォンにポケット内のゴミとかがついてそうで汚い感じ。やっぱりヘッドフォンが良い。なんて思っていると「月島ってどんな曲が好き?」と苗字が聞く。
「別にそこまで偏った趣味は無いけど」
「そっかー」
苗字は音楽プレイヤーの中から曲を選んでいるようで「よし、これに決定!」と言うとイヤフォンを持つ。苗字は左耳にイヤフォンを付ける。
「もう片方は?」
「こーいうこと」
そう言ってイヤフォンを僕の耳元に持ってくる。その手の動きを見ていると突然それが耳の中へといれられる。
「ちょっ、何してんの」
不満を漏らそうと苗字のほうへと視線をやると思った以上に彼の顔が近くにあった。驚きで不満が漏らせなかった。
「お前背高いし、コードは短いしよー」
そう文句をたらしながら言う苗字に戸惑うことしかできない。意外に睫毛が長くて顔が近いせいで彼の吐息が首に当たる。
「どした?無言だし顔赤いぞー」
「うるさい……!」
僕の反応が面白かったのかいたずらっ子のような笑顔をして「もてもての月島君でもこういうのは慣れてなかったかー」と苗字は言う。馬鹿馬鹿しい。そう思って僕は自分の耳に入っているイヤフォンをとる。イヤフォンから流れていた流行のアイドルの恋愛曲が聞こえなくなる。
「うわーつまんねえーもっと聞けよ」
「君に付き合ってる暇は無いの」
僕はそう言って未だに近くにある彼の顔を先程まであった場所に押し戻す。すると彼は意味ありげな笑みをする。
「俺はもっと月島と曲聞きたかったんだけどな」

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