プレゼント


「プレゼントは私です!」
クリスマスイブの帰り道、言われたのはそんな言葉。
「それこの前もやりましたよね。お断りします」
テンションの高い先輩、そして恋人である苗字さんのプレゼントを拒否する。ついこの間、20日程前の俺の誕生日で彼女はすでにテンプレのようなこの言葉を言ってきた。もちろんその時も断った。
苗字さんはふてくされたような顔をしながら「赤葦君は私のこといらないの?」という。可愛いなんて思いながら適当に返事をする。
「もう俺のものですから。いるとかいらないとかの問題じゃないです」
適当に返事をして後悔をした。けっこう、恥ずかしい言葉を言った気がする。普段じゃこんなこと言わないのに。隣の苗字さんはキラキラした目をこちらに向けてきている気がする。見たくない。けど可愛いだろうから見たい。しかし恥ずかしい。俺は苗字さんと反対のほうを向いてマフラーで口元を隠す。
「赤葦君、そんなこと思ってくれてたなんて……いつも赤葦君そんなこと言わないからすごい嬉しい!」
苗字さんはどんどんテンションが高くなって、たくさん話す。
「録音しとけば良かったね。本当、嬉しい」
そんなに嬉しそうに言わないでほしい。顔が熱くてしょうがないというのに。俺は口元までのマフラーを上げて、鼻辺りまで被せて赤い頬を隠す。
「赤葦君、こっち向いてよ。そんな顔隠さないで」
こっちが顔を隠そうとしているのにそれをわかったかのように言う。しぶしぶ顔を苗字さんのほうへ向けると苗字さんは嬉しそうな顔で笑っていた。その笑顔にまた赤くなって鼓動が速まっていくのを感じる。そして自分より身長の低い苗字さんのほうを向くため下を向いたせいでマフラーがずり下がって頬が見えてしまった。それを苗字さんは見つけるとまた嬉しそうに笑った。
「顔、赤い」
「うるさいです。っていうか苗字さん前もプレゼントは私とか言ってましたけど本当はプレゼント考えるの面倒なだけじゃ無いんですか?」
これ以上この話題を続けると俺の心臓が持たない。だから他の話題に変えると苗字さんは急に照れたようにする。
「むしろね、その逆なんだよ」
苗字さんはそう言って自分のお腹の前で指を絡め始める。寒いからしているというわけでは無さそうで恥ずかしがっているようだ。
「赤葦君ってバレー一筋で何あげたら良いかわかんなくて、1番楽しそうな顔がバレーの時。2番目が私といるときかなって思って。あ、ごめん自意識過剰かも……」
それだけ言うと苗字さんは俯いてしまう。
「バレーに関しては私よくわかんないから、だから2番目の楽しそうなときを作ろうって思って。赤葦君が喜ぶプレゼントなんだろうって迷った末に……」
そして少しいじけたように「迷惑?何か、馬鹿っぽいよね。ごめん」と言う。
「……別に、迷惑じゃないです」
迷惑というか本当は嬉しくもあった。無邪気に笑って「プレゼントは私です」なんて言う苗字さんは可愛かった。それにその表情が嬉しそうで、何故か幸せだなんて感じてしまった。
本当はこんなに嬉しいのに、苗字さんにちゃんと伝えられない自分がかっこ悪い。しかもちゃんと考えて、迷ってくれていた苗字さんの考えを俺は一蹴してしまった。気持ちなんて考えないで。
「苗字さん、すみません」
「え、どうしたの?」
「ちゃんと考えてくれたのに考えてないみたいに言っちゃって」
俺が謝ると苗字さんは困ったようにして「私は、大丈夫だよ?」と言う。
「そんな謝んなくても良いよ。私だって変なプレゼントだと思うし」
「そんなこと無いです。正直、嬉しかったです。苗字さんから貰って一番嬉しいプレゼントだって思います」
そこまで言って恥ずかしくなる。けどそれは自分の本心に一番近い言葉で、苗字さんにしっかりと伝えることができて良かった。後悔の気持ちは芽生えなかった。すると苗字さんはまた嬉しそうに笑う。
「赤葦君、ありがと」
「別に、本当のこと言っただけですから」
その笑顔が眩しくて目をまた苗字さんの反対側に向けると「こっち向いてよ」と言われてしまう。そして向くとまだその笑顔でいた。
「これからも、ずっと私は赤葦君のものだよ。赤葦君も私のものね」
約束、と言って苗字さんは俺のマフラーを下に引っ張り背伸びをして頬にキスをしてくる。突然のことで俺は暫く動けないでいた。
「これからもよろしく」
苗字さんがそう言うことで俺はようやく動き、唇を小さく動かす。
「……はい」
寒空の下小さく呟くと苗字さんは小さくくしゃみをした。
「約束してくれてありがと。寒いねー」
そう言いながら両手を擦る苗字さん。俺はその右手をとって、握る。苗字さんも握り返してくれた。嬉しくてしょうがない。俺はあくまで平常心、と理性を保ち苗字さんに話しかける。
「じゃあ、少し先にあるカフェ寄りましょうか?」
「やったー」
苗字さんは喜びながら言うとカフェのほうに向かって早歩きになる。可愛いな。後ろから見える耳が赤い。寒さのせいだろうか。
その愛おしい背中に向かって俺は「苗字さん」と呼ぶ。すると苗字さんは立ち止まりこちらを向く。
「何?どうしたの?」
俺は冬の寒い空気を吸い込んで、声を出す。
「好きです」
俺がそう言うと苗字さんは目を丸くして一瞬固まる。そして口辺りをもごもごとさせ「私も」と恥ずかしそうに言う。それだけ言うとすぐに前を向き直り歩を速めてしまう。距離が開く。しかし苗字さんは距離を取りたいんだろう。その頬は赤く染まって、耳は先程より赤くなっていた気がしたから。

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