特別な料理


あと2ヶ月でクリスマス。クリスマスといったら美味しいケーキ!私はスマホをいじる研磨の隣に座って研磨に尋ねる。
「研磨、クリスマスケーキ何が良い?」
研磨と同棲を始めて、初めてのクリスマスがやってくる。だから特別な日にしたい。そのために私はクリスマスの2ヶ月前の10月から準備を始めた。研磨にそれを言ったら呆れたような顔をされた。別にクリスマスなんて日本の行事では無いと言われてしまったが今ではクリスマスは立派な行事の一つだろう。それに研磨は嫌がっているわけでは無く面倒くさいだけだろう。
私が問いかけて10秒くらい間があく。研磨はその間、手に持ったスマホをずっといじっている。無視されたのだろうかと返答されることに期待をしないでいると突然、口を開く。
「……アップルパイ」
アップルパイ、その言葉を脳内で繰り返す。研磨の好物アップルパイ。パイ、パイ。ケーキなのだろうか。けどパイケーキというものもあるし。
「パイってケーキなの?」
「ん、知らない」
研磨は興味が無さそうに言う。初めてのクリスマスだというのに興味無いんだから……。少しくらい興味持ってほしい。
「普通にショートケーキで良い?」
私が面倒だと思い昔からクリスマスで食べているショートケーキで良いかと思い聞く。
「俺、アップルパイが良いって言った……」
すると研磨は不満気に言った。だから私も不満気に言い返してやる。
「けど私は何のケーキが良いって聞いたからパイは違うと思う」
「けどパイ美味しい」
何で今日の研磨はこんなにも譲らないのだろう。いつも面倒だから、と言って私に決めろと言うくせに。そして譲らないわりには興味が無さそうにスマホをいじる。
「ねえ、ショートケーキで良いじゃんー」
研磨の肩に頭をぐりぐりと押し付けてお願いしてみる。研磨は溜息を吐きながらスマホを近くに置く。そして急に私の額にキスを落とした。
「えっ!?」
驚きすぎて研磨の隣から離れる。けっこう素早い動きだったと思う。たまにしか無い研磨からの気まぐれなキスが急に来たら驚くに決まっているだろう。嬉しいけどどうしたの。
「ど、どどどうしたの?」
「別に……」
そう言うと研磨は欠伸をする。本当に何も考えてなさそう。そう思ったとき研磨が私の腕を掴んで引っ張る。
「ちょっ……」
そのまま私は研磨君の膝、というか太股の上にダイブしてしまった。顔の前には研磨君のお腹がある。細い肉の無い太股とお腹だなんて少し感動する。そうしていると研磨君に頬を掴まれて上を向かされる。
「俺、名前と二人だけのクリスマス初めてだから、名前と同じように楽しみにしてる」
急に真面目な顔でそんなことを言われた。
「え、ああ、はい」
どういう反応を返したら良いかわからなくて曖昧な返事をする。そして研磨は私の目をじっと見て話す。
「だから、特別な料理にしたいって思う」
「けどアップルパイって」
「好きだから」
好きだからというのはアップルパイのことだ。なのに何故かそんな素直な言葉が胸にじわりと染みる。
「好きだから特別な日に、特別な人と食べたいって思うのは普通じゃない?」 
研磨が私のほうを見ながら首を傾げる。すると髪の毛が揺れる。
というか今、どきっとした。研磨が真っ直ぐ見つめてあんなこと言うから。今日、不意打ちが多すぎる。キスされたし、いきなり言われたし。心臓が足りなくなる気がする。
「研磨、ちゃんと考えてくれてたんだ……」
嬉しく思って「ありがとう」と言うと研磨は無言のまま目を逸らす。
「……?あの、研磨もしかして」
「はい、この話はもう終わり」
「え」
言いたいことがあるというのに研磨は早く話を終わらせたそうだ。これはゲームをしたいとかじゃない。多分、先程の言葉はアップルパイを食べたいがためのでっち上げで何も考えてなかったのだろう。そんな言葉に私が研磨の予想以上に喜んだから……。
「研磨、今のでっち上げ?」
研磨の太股の上で呆れたように言うと鼻をつままれる。
「苦しいっ!っていうか私、嬉しかったのに、酷いよ!」
不満を漏らすと研磨の顔が私の顔に近づいてくる。まさか、これは。そんなふうに思ったときには唇が重なり合っていた。すぐ唇は鼻をつまんでいた手とともに離される。
本日2回目の突然の、気まぐれなキス。しかも次は唇。嬉しい。
「でっち上げって言ったらどうする?アップルパイ、食べられない?」
研磨は頭を優しく撫でながらそう問いかける。真っ直ぐと私を見つめながら。身体全体が熱くなる。嬉しいし、恥ずかしいし、断れるわけがないし。
「研磨、ずるい……」
顔を手で隠してそう言うと頭をまた撫でられる。
「アップルパイ、楽しみにしてる」
「……はい」
今年のクリスマスケーキはアップルパイになりそうだ。ちょっと変わっている私達の特別な料理っていうのも良いかもしれない。

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