いるか、いないか


「サンタなんているわけないだろ」
中2のクリスマスイブの日。こんな日だっていうのに北一バレー部では当然のように練習があった。部活の練習が終わり影山が自主練をするというから付き合ってやっているのになぜかちょっとした言いあいになってしまった。
「いるに決まってんだろうが、ボゲ」
「は?小学生かよ」
その言いあいの内容はくだらないものだ。サンタさんはいるか、いないか。俺はもちろんいないに決まっていると主張しているのだ。しかし影山はいるに決まっていると言って譲らない。本当、小学生かよ。
「だっていなかったらプレゼント貰えないだろ?」
影山は本気で信じているようで真顔で色々と言いだす。
「サンタじゃなくて親がくれてんだよ」
俺は言われるたびにその言葉を一つ一つ返してやる。すると影山は考え出してまた何かと言ってくる。
「親がくれるわけねえだろ。親は親でくれてるんだから2つなんて……」
「クリスマスは特別だから」
「けど」
「じゃあサンタがいるって証明できるのか?」
そういうと影山は黙ってしまう。サンタがいないって証明できるのかって言い返せばいいのにアホというか素直というか。
「しょう、めい?」
そこからか。黙った理由はそっちだったのか。これは驚きだ。というか証明って数学で習ったと思うのだが。どうせこいつのことだから寝ていたのだろう。
「しょうめいだとか知らねえけどいるんだよ!」
影山はヤケクソになったようで声を張り上げて言う。小学生……と心の中で思ったが言わないでおく。そして馬鹿にしたように笑ってやると影山は顔を真っ赤にしながら怒る。すると近くに歩いていたマネージャーの苗字を呼び止める。何をするんだと思うと影山は真面目な顔で「サンタさんはいるよな」と言った。苗字は突然の問いかけに驚いていた。そしておろおろとして俺と影山の顔を見比べる。そして少し頬を赤くして俯いて小さい声で言う。
「いる、んじゃないかな?」
相変わらず可愛らしく言うものだ。俺がお前を好きだなんて知らないで影山の味方しやがって。少し嫉妬心が芽生える。
「だよな!いるよな!」
苗字がいる、と言うとすぐに嬉しそうに笑う影山。こっちは不機嫌だというのに。
「ほらな、国見。苗字だっているって言ってるんだからいるんだよ!」
影山は自信ありげに胸を張って言う。それを見て苗字は眉をさげながら笑うけどその笑顔は嬉しそうだった。ああ、影山にそんな笑顔向けるなよ。
「国見君?どうかしたの?」
俺が不機嫌になっているのがわかったのか苗字は俺を見ながら聞いてくる。影山はまだ自慢げにしているだけだ。
「……別に」
そう言うと苗字は不思議そうな顔をしていた。やはり可愛らしい。しかし俺が返事をするとすぐに影山のほうを向いて話し始める。その横顔は楽しそうなものでやはり嫉妬してしまう。
「影山、俺、やっぱ帰る」
「は?練習付き合ってくれるって」
「金田一にでも付き合ってもらえ」
俺が体育館の反対側でサーブ練をしている金田一を指差してそう言うと影山は不満気な顔をした。しかしすぐに他に練習してもらえる人ができるとわかると嬉しそうにした。そして金田一を呼ぶ。
「おい、金田一!」
急に影山が呼ぶものだから金田一は驚いてサーブを外していた。そしてそこでまた言いあいとなる。この隙に俺は帰るか。
「じゃあな」
小さくそう言って影山達に背を向ける。言い争っていて気付いてない。しかし苗字は俺のほうへ来る。
「じゃあ、また明日!」
笑いながら言う。その笑顔に少しどきりとする。俺も「明日な」と言ってそのまま更衣室へ向かう。嫉妬心さえも消してしまうような一度の笑顔。世界がまるで苗字のもののようでどこぞの少女漫画のヒロインだなんて馬鹿らしく思う。
しかし苗字がサンタいるって言うなら、いるって思っても良いかもしれない。彼女が俺の世界のルールだから。

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