サンタさん


大学になって初めての冬がきて、クリスマスイブが来た。
それなのに私は室内にこもってレポート作成だ。外とは違い温かい室内に文句はない。それにどちらかと言えば外は雪が降っていて外出したくない。
やはりこの日は恋人といたいものだ。当の恋人は高校生の徹君。近所に住んでいて幼馴染だ。彼の学校はもう冬休みに入ったらしく今日は家にいるといっていた。会おうと思えばいつでも会える距離だ。それに徹君は前々からクリスマスを私と過ごしたいと言っていた。しかし私がレポートを書かないといけないと知ると遠慮したようだった。
「うー会いたい」
情けない年上でごめんなさい。レポートより大好きな恋人に会いたいなんて。徹君が遠慮しているのに。私の手は自然と近くに置いてあったスマホへと伸びる。電話帳の中から彼の名前を探す。及川徹という文字を見つけるとすぐに電話をかける。耳元では電話の呼び出し音が聞こえる。出てくれるかな、なんて少しドキドキする。するとすぐにその呼び出し音が終わり、徹君の声が聞こえる。
「はい、徹です。名前ちゃん?どうしたの」
「あ、徹君!」
嬉しくってつい、声があがる。はっとして私は手で口を塞ぐと深呼吸をして話し始める。
「えっと徹君に、会いたくなったっていうか」
会いたいと言うなんて。けっこう恥ずかしい。自分、何言っちゃってるんだろうと思う。しかし言ったことは消せないわけで。電話の向こうの徹君は一瞬、無言になる。その一瞬が私には怖いなんて感じた。いくら幼馴染で恋人でもあんな言葉言われたらひくよね。私はなんてね、とか言ってその言葉を取り消そうとする。言おうとすると同時に電話の向こうから笑い声が聞こえる。その笑い声は馬鹿にしているような感じじゃなくて、嬉しそうな感じだ、と私は思う。
「名前ちゃん、俺も会いたいって思ってたところ」
「同じだね」なんて徹君が言うものだからついにやけてそれを抑えるように下唇を噛んでしまう。それでも嬉しくて頬が動いてしまう。
「今から会いにいって良い?」
もしも駄目なんて言われたらどうしようなんて不安と期待を込めながら言うと電話の向こうから優しい声が聞こえてくる。
「良いよ」
「本当!?」
私が喜ぶと徹君はすぐに「って言いたいところなんだけど駄目」と言う。
「なんで?会いたいのに……」
喜びから一気に下がって悲しくなる。徹君とこんなにも会いたいのに。大好きな人に会いたいのに。それが声を通して伝わったようで「そんな悲しそうに言わないでよ」なんて言われてしまう。
「だって名前ちゃん、レポート書かないといけないんでしょ?それなのに会って終わらなくなったりしちゃうのって駄目だよ」
「うっ、それは」
まさか叱られるとは思わなくて言葉につまる。徹君の言うとおりだ。しかし徹君に会えないからそのせいでうずうずして、書く手が止まってしまうのも事実であった。
「とにかく名前ちゃんは頑張るんだよ?」
「……はい」
恋人とはいえど後輩に叱られるなんて情けない。しかも真っ当なことを言われた。けっこうこれは心にくるものがある。
「精進します……」
「うん、頑張ってね。名前ちゃんがレポート書き終わったら遊ぼうね。楽しみにしてる」
本当に徹君は女の子、というか私の気持ちが良くわかっている。書き終わったら一緒にデートできるってことだよね。そんなら頑張らないわけがないでしょう。
「はい!」
嬉しくて声を大きくして返事する。本当、私って単純だなと思うが単純で良い。だってその分、徹君から私に向けてくる言葉や行動に一喜一憂できるのだから。幸せものだと思える。
「頑張るね!じゃあまた、終わったら絶対遊ぼうね!」
「うん、約束する。またね」
よし、頑張るぞなんて思って「じゃあね」と返事をして電話を切ろうとする。すると「ちょっと、待って」と徹君の声がする。
「ん?何?」
もう一度、スマホを耳に当てると徹君は囁くようにして言う。
「大好きだよ名前ちゃん、頑張れ」
急に言われたそんな甘い言葉。顔が熱くなるのを感じた。徹君はそれだけ言うと電話を切った。暫く私はスマホを耳に当てたまま止まっていた。
「うん、頑張る」
もう頑張るしかないじゃん。私はスマホを元あった場所に置くとすぐレポート作成に取りかかった。

頑張ろうとしたものの、できないものはできないのだ。あの電話から2時間程たった午後6時。外は真っ暗だが白い雪が見える。ホワイトクリスマス、か。こんな日にいちゃいちゃできる恋人め。
「うーん……会いたい」
会いたいし、けど早くレポートを終わらせてデートしたい。サンタさんなんて信じる年齢でもないけれどいるなら手伝ってほしい。プレゼントはレポートを手伝ってくれる券で良いからお願いします。なんて願ってみる。それでも来ないに決まってるのだ。だから私は嫌々ながらもレポートを書く手を緩めずにいる。
「はぁ……」
徐々に溜息の回数が増えていく。溜息をするたびにしんどくなっていくように感じた。そういえば溜息をすると幸せが逃げるんだっけ。けど辛い。そんなどうでも良いことを考えながら書いていると家のチャイムが鳴る。誰か来たのだろうか。宅配便とかかな。こんな雪の日にご苦労なことだ。そんなこと思っていると部屋の外から「名前!」とお母さんから呼ばれる。
「どうしたのー」
私への届け物でも来たのだろうか。けど最近、私何か頼んだっけ。部屋の扉を開けて階段を下りていく。階段を下りたところにお母さんが立っていた。
「徹君からよ」
そう言って渡されたのは可愛らしくラッピングされたプレゼント。
「え、徹君から?」
急に渡されたプレゼントに驚く。まさかこんなサプライズあるなんて。
「徹君帰っちゃった?」
「あんたがレポート書いてるから邪魔しちゃいけないって言って帰ったわよ」
「え、会いたかったのに……」
どうにかして会えないものかと考える。もしかすると私の部屋の窓から見えるんじゃないだろうか。
「お母さん、ありがと!」
私は急いで階段を上って自分の部屋へと行く。窓の下を見ると徹君が歩いていた。寒そうで猫背になっている。窓を開けて「徹君!」と呼ぶ。外から部屋に冷気が流れ込んできて寒い。しかし気にせず徹君を呼ぶと彼はこちらを振り返って驚いたようにした。
「あれ?名前ちゃん?」
「徹君!ありがとう、これ!」
プレゼントを持ち上げて言うと徹君が笑ったような気がした。暗くてはっきりと表情はわからないけど優しい笑顔で笑っている気がする。
「寒いでしょ、早く閉めなよ。あと早くレポート終わらせてよね?」
「うん、頑張る」
「俺だって会いたいんだから」
徹君はそう言うと「頑張って」と手を振ってくれた。私は徹君が見えなくなるまで手を振った。寒い。けど嬉しくて頬が熱い。
見えなくなると窓を閉めてプレゼントを胸に抱きかかえる。嬉しい。私も早く直接会いたいよ。もう一回、気をしめよう。それで早くレポートを書き終えよう。そしたらきっと会えるから。プレゼントも終わるまでのお楽しみ。スマホの隣に置いておこう。
徹君はレポートを手伝ってくれる券なんかくれないし、ありもしないけどサンタさんみたい。私に喜びと幸せをくれる私だけの大好きなサンタさん。
「いるんだね、サンタさんって」
そんなふうに呟いてレポートをまた書き始める。彼に会うために。

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