5話「 信じる心 」
私は今でも忘れない。
和哉をとられた時の、
あの気持ちを。
田村美紀子は、和哉が私の彼氏だってことを知ってて…。
「死にたい」
気が付けば夜が明けいて。
左手首の真っ赤な血管を掲げ見上げた。
何故かコピックマーカーで塗られた手首を見ると、
異様に心が落ち着いた。
机には千切られた写真が散乱している。
裏切り者の顔は、
真っ赤に塗り潰され。
今日もまた、
快晴の空を睨み付ける。
あの空も、このコピックマーカーで塗り潰せたら、
どれほど楽になるだろう。
ラッピングなのかも。
本当は、赤いのかも。
快晴を繕っただけのラッピングなんだ。
「まるで…」
―みっちゃんみたいだね。
窓が金切り声をあげる。
ラッピングを剥がすように、
私は空を引っ掻いた。
死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい
リズムに合わせては聞こえる心の声。
『MAGI☆GIRL』を最終刊まで持ってる人は、誰一人としていない。
『MAGI☆GIRL連載中止について、皆さんどう思いますか?』
『作者人殺し\(^o^)/』
『まぢでそーかもww』
『公式にも理由書いてなかった。ま、人殺しちゃったんなら書けないか☆』
理由は知らない。
突然発行されなくなった。
いつからかネットでは「作者は人殺しをしたから」という噂が出回った。
信じられなかった。
信じたくなかった。
私に夢を与えてくれた漫画が連載中止なんて。
それから、何かもう…
学校なんてどうでもいい、と思うようになった。
せめてちょっとした理由だけでも書いて欲しかった。
公式ホームページだって作者を見捨てたみたいに、何一つ更新されていない。
「放置状態…」
パソコンのスクリーンに目を通す。
もう、更新されることはない…
そう分かっていても毎日調べずにはいられなかった。
心の底で、まだ信じている。
「MAGI☆GIRL」は
また連載するだろう、と。
「…九条あゆみ」
そんな快晴の空の下、
窓の向こうのあゆみを見上げる人影が一つ。
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