最近よく閑古鳥が鳴くこの店。簡単に見つけることが出来ない店だとはいえ、さすがに人が入らなさすぎだと思う。
眼鏡の知的なのと明るくへらへら笑う二人組の男性達が、一番最近の客。望み通り過去に飛ばしたそれですら、もうずっと前。

「暇です湛山さん」
「そうかな?」
「ええ、とっても」

気にしていなかったのか、湛山さんはいつだったか客から頂いたロッキングチェアにその身を預けて揺れている。ちなみにギーコギーコと音を出すそれは、湛山さんのお気に入り。
確かに客が来なくても困りはしない。けれどもあまり来ないというのも、いささか店としては問題だろう。
というわけで。

「店の宣伝しましょう湛山さん」
「宣伝、かい?」
「そうです宣伝。だって暇ですから」

暇過ぎて店内の掃除も既に5回。修理も3回。今までの客の情報を記した帳面の整理も4回はした。とにかく手当たり次第にやれることはやった。全ては客が来ないが故に。
これを後何回こなしたら客がやって来るんだろうか、なんて悩むのであれば、こちらから客を捕まえてくればいい。そう、客がいなけりゃ連れてくればいいのだ。いたって単純なこと。
やる気のなさそうな湛山さんの前に仁王立ちし、ふん、とふんぞり返れば、彼は「頑張って」となんとも他人行儀な返事をくれた。殴っていいだろうか。

「湛山さんもですよ!」
「えー、私はいいよー」
「よくないです!暇すぎでしょ!宣伝!宣伝!せ・ん・で・ん!」
「うわ、ちょ、わ、わかったからそんなに揺らさないでくれるかいっ?」

腹が立ったので湛山の座るお気に入りのロッキングチェアを持てる力全部で揺さぶり、ようやく了承を得た。ふふん、最初からこうしていればよかった。
湛山さんはというと揺らされ過ぎてヴ、と気分悪そうに額に手を当てて唸っている。しかしそんなことは関係ない。

「さて湛山さん。一度了承したんだから取り消し不可ですからね!湛山さんも働いて下さいよ!」
「待ちなさい!…わかったから、ちょっと待ちなさい」
「……何ですか」

何故か待てと言う湛山さんに怪訝な目を向ければ、考えがあると言い出した。一体何を言い出すやら。

「私に何でも屋の知り合いがいるんだよ」
「つまり、その方に宣伝を頼むと?」
「うん、そうだよ。宣伝はできるし、そしたらおきゃくさんは来るし仕事が入る。問題ないだろう?」
「……はあ」

全く湛山さんは。どれだけ自分で動きたくないんだか。確かに宣伝という目的は果たされるけど、そんな他人に任せたらお金がかかるだろう。ただでさえ仕事の代償は《時》だからお金がないのに、そんなの雇ったら火の車だ。湛山さんは僕を苦しめたいんだろうか。
そんな様子を見てか湛山さんはにっこり一言。

「大丈夫、彼への支払いはお金じやなくて情報だから」
「あ、ならいいです」
「随分あっさりだねえ、蘆花」
「お金かかんなきゃいいんですよ」

そうそう。だったら全然いい。湛山さんのことだからいらん情報は捨てるほど持っているだろうし。僕としては不利益なことは何もない。反対する理由もないだろう。そうと決まればさっそくその何でも屋を呼んでもらわなければ。

「その方は?」
「うん、今呼びかけたよ。すぐ来ると思うから、八束(やつか)ってのが来たら起こして欲しいかな」

そう言うや否や、湛山さんはスースーと寝息をたて始めた。…呼び掛けたって、さすがは湛山さん。離れた場所にいる相手と意志疎通できるなんてすごい力だ。
とにかく、八束という、まあ恐らく人じゃないヒトが来るのを待つとしよう。
(ほぼ)ただで宣伝してくれるらしい、そのヒトを。



どうぞご贔屓に





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