――――チクタクチクタク。カコリ。
大きな古い置時計の針達がリズミカルに時を刻む音が響くとある店内。
「…湛山(たんざん)さん」
「なんだい蘆花(ろか)」
なんだい、じゃないですよ湛山さん。と、ふんと溜め息を吐き出しながら蘆花と呼ばれた少年(のように見える)は、ふんわりと吹いたら飛んでいきそうな雰囲気を纏う男に詰め寄り、手に持っているものをその眼前にたたきつけた。
対する湛山と呼ばれた方は「おやおや、蘆花ったら怖い顔だねえ」と呑気なご様子。さらり、首を傾げた長い髪が、山吹色の着物に流れる。大袈裟に驚いてみせたせいか、鴬色の羽織が揺れた。
「うわ、大変」
「大変、じゃないです!よく見てくださいここ!」
ズイ、叩きつけたソレ―――もとい、一枚の紙には《請求書》の文字が鎮座していた。
「ああ、これね。払っといてね蘆花」
だのに、ふわふわと吹いたらどこか飛んでいきそうな笑みを浮かべながら、湛山さんはやんわり請求書を押し返してくる。
全くこの湛山という男は!
気のききそうな優男な外見に似合わずそういったところがずぼらすぎる!中身と外見を統一しろ!
少し気を抜けばいつの間にやら、ぶらり、どこかに行ってしまい。またぶらりと帰ってくる。気づいた頃にはそのぶらりの用で使ったお金の請求が溜まりにたまるったらありゃしないのだ。毎回注意しているというのに、直す気配もない。お金がないわけではないが、次から次へと使われてしまっては困る。
再度注意するも、ふわり、微笑んで誤魔化す湛山さんに、ああもう駄目だこりゃと額に手を当てた。
いつかその長い髪を引き抜いてやる!と小さく呟いた僕に、やっぱり彼は笑った。この人とは長い付き合いだが、この笑みで誤魔化されているとはわかりつつも許してしまう僕も、駄目だな。
結局僕は湛山さんには甘いってことか。
人の気苦労も知らないで、この店の主人は楽しそうに時計の奏でる音に耳を傾けている。
問題児と保護者