自分の左手の小指を立てて食い入るようにじぃっと見つめていると、並べるように別の手の小指が私の小指にピッタリとくっ付いてきた。
「わ?!」
「こんなとこで固まって、何を考えてるんだ?!」
縁側に座っていた私の背後から、にゅっと現れたその大きな手に驚いて顔を上げると、何やら興味津々な様子でキラキラ輝く瞳が近付いてきた。
一旦指を離すと右隣に腰を下ろした晋作さんに肩を抱き寄せられて、再び私の左手小指と晋作さんの右手の小指がピッタリくっつく。
抱え込まれるような形になって、ついでに小指以外にもアチコチがくっつくから。
「ははっ!ハルは体温高いな!抱いてると温い!」
そう言って邪気のない満面の笑顔で頬擦りまでされるから、私はもう顔から火を噴きそうに熱くなる。
「もう!晋作さんっ、止めてってば!」
「嫌だ!」
そんなにハッキリ断言されちゃ二の句が継げない。
その上、私もこうされるのが心底嫌かといえばそんな事は無い訳で・・・きっと晋作さんはそんな私の照れ隠しも全部お見通しなのだ。
「で?何考えてたんだ?!小指がどうかしたのか?!」
「ちょ、耳元で叫ばないでっ」
「む。叫んでいるつもりはないんだがな・・・仕方ない、小声で話してやる」
心外そうに言うと、極普通のトーンに声をおとす晋作さん。
「で?何を考えていた?」
「・・・えーと」
左手の小指には見えない赤い糸が結ばれててただ一人運命の相手とだけ繋がってるんだよ・・・って、小さい頃に聞いて密かに夢見てた。
私がこの時代に迷い込んだのが運命ならば、もしもこの小指と繋がってる赤い糸が目に見えたならば・・・
糸の先にいるのは、ひょっとして・・・
とか小指を見つめながら考えてたら、唐突に視界に飛び込んだのは赤い糸じゃなくて、節々がゴツゴツしてる晋作さんの長い指で。
まるで糸を引き寄せたかのようにくっついた指と指を見て運命を感じてしまった、なんて恥ずかしくて言えやしない。
「・・・な、なんでもないっ!」
「こら!隠し事をするな!」
だけど、私を後ろから羽交い締めにして子どもみたいに純粋な好奇心をぶつけてくる晋作さんに敵うはずもなくて。
結局は考えていた事を洗いざらい白状する羽目になった。
(さすがに、くっついた指に運命を感じた…なんて事は言わなかったけど)
「じゃあ誰の左の小指にも糸が結ばれてるって事か!」
「うん、まあ、ただの言い伝えというか、そうだったら素敵だな、というか・・・」
「じゃあ、こっちじゃないな!」
「へ・・・?」
突然思い立ったかのように縁側から外に降り立った晋作さんが私に向き直ると、先程までくっつけられていた右手じゃなくて左の小指を差し出してきた。
ポカンとその行動を見ていた私の指が、晋作さんの指に絡め取られる。
「糸の話が真でも偽りでもオレには関係ない!」
キュッと繋がれた小指に力が込められて、心臓まで掴まれたみたいにキュンと鳴る。
「例え糸が繋がっていなくとも、今オレとお前の指は繋がっている!オレはお前を離す気はないぞ!ハルはオレの女だ!」
「・・・ご、強引っ」
「ん?文句があるのか?」
恥ずかしくて思わず憎まれ口をきいてしまう私に、唇の端を持ち上げて不遜に言ってのける晋作さん。
文句なんてあるわけがない。
だけどそれをそのまま伝えるのは照れ臭いから、無理やり話題を変えてみた。
「・・・し、晋作さんて、いつもきちんと切ってあるね!爪!」
「む?」
「晋作さんて爪とか伸びてても気付かなさそうなのに・・・」
「・・・伸びてると小五郎の奴が『だらしない』だなんだと五月蝿いんだ」
「あはは!」
「笑い事じゃあないぞ!」
短く揃えられた晋作さんの爪も、繋がれた指から感じる晋作さんの温もりも。
晋作さんを感じる全て、全部全部愛しい。
夢見ていた赤い糸よりも、たった今繋がっている晋作さんの指の方が遥かに強力な引力を持ってる。
晋作さんが望んでくれるのなら、運命を変えてでも私は晋作さんの傍にいるよ。
(だから、離さないでね)
キュッと小指に力を込めて、そう強く願った。
110110
130116/加筆修正
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