2012.05.23 (Wed) 16:25
トロニカちゃん


「もう、帰ってしまうのですか…?」

きゅっ。
身体の後ろで少し引っ張られたような感覚に、斬斗は静かに後ろを振り返る。

「トロニカ……?」

振り向いてみれば、どこか憂いのある表情を浮かべた彼女が、小さく自分の服の裾を掴んでいて。

「あっ、私……ごめんなさい」

どうやら彼女自身も無意識のうちの行動だったらしい。自分の行動に気付いた彼女は、謝りながら裾を掴んでいたその手を慌てて放す。
そんなトロニカの様子が珍しくて、そして無性に愛しく思えて。斬斗はふっと笑みを洩らしてから何度か頭を撫でてやった。

斬斗の突然の行動に最初はビクッと肩を震わせたトロニカだったが、何度か撫でられるうちに気持ち良さそうに目を細めた。

「――子ども扱い、ですか?」

「いや?そういう訳じゃねえけど…」

「けど……?」

続きを促すように覗き込む彼女からの眼差しに、斬斗はツンっと彼女の額を指でつついて。
対してトロニカはつつかれた額を手で押さえながら。

「お前って何でもかんでも我慢するだろ?寂しいなら寂しいって言えって」

「あ……」

一瞬驚いたように目をぱちぱちと瞬いた後、頬をほんのり朱に染めて俯くトロニカ。

ギルド『北極星』で一級戦闘士として働いている自分がこうして街に戻ってくる機会は少ない。むしろ忙しくなりつつある日々の中で、彼女に会うためどうにかして休みを確保しようと苦悩しているくらいである。
斬斗はギルドで任務をこなしている最中でもトロニカに会いたいと願うことがあったが、それは彼女も同じだと言うことに何故今まで気付いてやれなかったのだろう。

頬を染め、尚も俯いているトロニカをそっと自分の元へ引き寄せて腕の中に収める。
それから驚いて顔を少し上げた彼女の額にちゅ、とキスを1つ落とした。
先程つつかれたその場所に、今度は柔らかい感触が広がってゆく。

「き、きき……斬斗さん?!」

今度こそ顔を真っ赤に染めた彼女に笑みをこぼしつつ、

「決めた。オレもう少しここにいる」

と斬斗は言った。

「本当ですか!あ…でも…斬斗さんはお仕事で疲れているので、無理はせず休んでほしくって……」

嬉しいような、不安なような、そんな複雑な表情を浮かべて言うトロニカ。
そうやって自分の体調のことをいつも気遣ってくれる彼女には感謝してもしきれないし、逆らうこともできない。否、最初から逆らうつもりはないと言ったほうが良いだろうか。
斬斗の心は、いつだって彼女だけに向いているのだから。

「――じゃあ。オレが休んでる間、膝枕お願いしてもいいか…?」

これなら。休んでほしいという彼女からの願いも、まだ傍にいたいという2人の願いも、同時に叶えられる。
とは言っても膝枕をするのはトロニカなので斬斗は控えめに提案してみる。

「膝枕……はい。やります!ではどうぞもう一度お部屋のほうへ…!」

大きく、案外あっさり頷いたかと思うと、トロニカは斬斗の手を取って廊下をパタパタと駆け出した。


――繋いだ手が熱い。

お互いの手から伝わるその熱が、今、愛しい者と一緒にいるのだということを感じさせてくれた。

斬斗はその温かさに身を委ねるかのように目を閉じ……再び開いて、その幸せを噛みしめた。





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キスの日ネタなのにキスらしいキスをしていません、ごめんなさい!(笑)

キリトロでほのぼのした感じのお話を書きたかったのです(*´ω`*)

しかし最後の落ち方が見つからず、無理やり締めました(
また今度リベンジしたい…!!
キスネタもリベンジしたい…!!

トロニカちゃんをお貸し頂きありがとうございましたー!

こんな斬斗をこれからもよろしくお願いします…!

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