/創作
人の死を、目の当たりにするというのはこんなにも辛い事なのね。
いつかの友が口にした言葉だ、私はその友の切な気な、でもどこか安心した様子の横顔を何を言うわけでもなく見つめる事しか出来なかった。
雨に打たれていたものだから、友が泣いていたかは判断がつかなかった。
…雨が降ると、どうも頭が痛くなる。痛いなあ。
04 雨音はどこから聞こえるのか
雨の日は嫌いだ、何故か頭が痛くなるから。髪の毛は跳ねるし、外に出たら濡れるし。雨が降って良いことなんて、これっぽっちもない。
なんて事を以前友人である調に言うと、雨がないと農作物育たないでしょ!と正論で返された。それでも私は、雨が好きでない。
雨が降ると頭が痛くなる、というのはよく聞く話だ。私も痛くなる。でも私はただ痛くなるだけでは無かった。これをどう言ったら良いのか、語彙力が足りないばかりに説明するのは非常に難しい。
…雨粒が、鉛のようになって己の脳に当たってくる、そんな感じだ。普通の頭痛とは少し痛み方が違うのだ。
脳に直接物理的な痛みを加えられている、と言えば理解はしてもらえるだろうか。
痛くて仕方がない、脳も痛いのだがこう、胸のあたりもチクチクと痛むのだ。これは病気じゃなかろうかと思って診察にも言ったが、特に異常はなく頭痛薬を与えられただけだった。
また雨が降る夜は、必ずと言って良い程妙な夢を視る。
夢の内容は、覚えていない。けれど、そんな夢を見たのだという事だけを覚えている。
そんな夢を視た朝は、毎回覚えていない自分に苛々してつい周りに八つ当たりしてしまう。
これだから、雨は嫌いなのだ。
「楪ちゃんも苦労してるねー」
「でしょ、ちょっとどうにかして雨降らせないようにして下さいよ薙さん!」
「あっはは、無茶言うなあ。」
困ったように笑う彼は、常に独特な雰囲気を醸し出している。なのに気さくで接しやすい。調を通して知り合ったのだが、いつもフラフラしていて遭遇率は割りと高めだ。
ある時は公園に、ある時は町の中に、ある時は木の影に。年上である事は確かだが、年齢や職業は不詳である。というか、働けているんだろうかこと人は。
「夢ってのはさあ、忘れちゃうものなんだよ。」
「…そういうもんですか。」
夢を見なかった、なんて日もあるだろうがそれは見なかったんじゃなくて忘れてしまっただけなんだよ。
人間は毎日毎日、夢を見てるんだ。
…なんて事を、薙さんは語った。
忘れ去る、消え去るものなら、見たという記憶さえも消し去ってくれて構わないのに。仕事しましょうよ私の脳。
そんな事を思っていると、薙さんがまるで見透かしたように言った。
「君はもしかしたら、思い出したいのかもしれないよ。」
「思い出したいって、何を……」
「君が忘れてしまった、そう…例えば、" "を。」
「え?」
彼は今なんと言ったんだろう。その部分だけノイズで――いや、雨音で掻き消されてしまったようだった。私が一体何を忘れていると言うのか。
そんな意味を込めて視線を送ると、薙さんはにっこりと笑って私の髪を撫でた。きざったらしいその動きは、非常に彼に合っていてなんだかとても恥ずかしくなる。
なんとなく、彼は私を出会う前から知っていたのかもしれない、だなんて阿保らしい事を考えた。