/創作
 昨晩、兄が零した言葉が脳内をぐるぐると回っていた。「夢が繋がったら、面白いよな。」なんて、虚ろな目で私の兄、透は言ったのだ。
あの言葉に私は何故か恐怖を覚えた、そしてまたまた不思議な事に――狂おしい程の愛情を感じたのだ。これを他言したらきっと意味が分からないと言われてしまうだろう。それも仕方ない、私自身、意味が分かっていないのだから。

「――い…… 先輩… 薫先輩!」

「わっ、え、な、何!樹衣ちゃん…!」

 いきなり自分の名前を叫ばれて吃驚してしまった。顔をあげるとそこには…私の部活の後輩、早乙女 樹衣(さおとめ きい)ちゃんと樋口 纏ちゃんが心配そうに私を見つめていた。いけない、心配させてしまったかと思って笑顔を取り繕う。

「ごめんごめん!ぼーっとしちゃってた!」

「ぼーっとしてたっていうか…なんか凄い表情してましたよ。なんか。」

 なんかと繰り返す纏ちゃんはきっと私の表情を表せる上手い言葉が見つからなかったのだろう。確かに私は変な顔をしていたのだろう、先程まで恐怖云々愛情云々と訳の分からない感情をひたすら並べていたのだから。


 03 繋がってしまったのだとしたら




「なんか悩みでもあるの……?」

 樹衣ちゃんが心配そうな顔で聞いてきたので、特に何もないよと返すと絶対嘘です!何かあるんでしょう!と食い下がって来たので濁してこの話をしてみようかと思った。
この事を他の人に話して何になる訳でもないが、何とも言えないもやもやが、少しは晴れるかもしれないという考えだった。
まあ、きっとよく分からないと言った風で話は終わるだろうからこのもやつきは今後とも続くのだろう。

「お兄ちゃんがさ、昨日変な事言っててね。」

 夢が繋がったら面白いよね、っていきなり話し出したからどういう意味だろうって考えてたんだ。と言うと、樹衣ちゃんはきょとん、とした顔で首を傾げ纏ちゃんは「夢が繋がる……うーん…?」と何やら考えているようだった。
やっぱり、訳が分からないのだろう。

「夢が繋がるってどういう意味かなあ……」

「うーん、夢の続きをまた見る的な? 夢の内容が連続するとか…?」

 纏ちゃんの意見になるほど、と自分は思った。お兄ちゃんの言っている事はそういう事だったのかもしれない。面白い夢の続きとかをまた次の日に見れたら良いよねという意味だったのか。
…私の、深読みだったのか。

「私はどっちかっていうと、みんなの夢が繋がるって事なのかなって思った!」


 樹衣ちゃんのその言葉に、どきっとした。心臓に何かが刺さったような感覚、何故だろう。私も同じ事を考えていたのだが、その考えを改めて他人の口から聞くと…… やはり恐ろしい。恐怖を覚えてしまう。それと同時にまた、あの狂おしい程の……
その感情と共に思い出すのは、兄のあの虚ろな瞳だった。兄は何を思ってあの言葉を口にしたのだろうか。兄は、どんな夢を見たのだろう、どんな人が見たどんな夢と繋がりたいと思ったのだろうか。

「…二人は最近どんな夢見たっ?!」

 なんとなく、怖くなってきて話題を逸らした。何に恐れたのかは自分でも分からない。ちなみに私が最近見た夢は数学の提出物に追われて参っていた夢だ。…ろくな夢を見てないな。
私の問いに樹衣ちゃんは「猫の夢みたよっ!」となんとも可愛らしい内容の夢を聞かせてくれた。この子の脳内は可愛い物、で詰められているに違いない。
そんな無垢な樹衣ちゃんを見て、なんとなく心が和んだ。

一方纏ちゃんはうううん、と唸って首を傾げていた。


「私さあ、多分今まで一度も、夢見たことないわ。」

「え? 一度も…? それ忘れてるだけなんじゃないの?」

「いやほら、忘れてても大体の人が"こんな夢を見た気がする"って事は覚えてるじゃないですか。」

「ああ…それはそうだね。」

 夢の内容は忘れてしまうが見たという事は覚えている。それは大体の人が体験している事だろう。



「私の場合、"夢を見た"っていう記憶すら、ないんです。一度も。」


 なんだかそれが、私には非常に不気味な事のように思えた。


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