/創作
 夢を、視たのです。震えが止まらない程に恐ろしい夢で、笑いが止まらない程に、楽しい夢でした。何故自分の手が血で汚れているか分からなくて。何故鏡の中の己が狂気染みた笑みを浮かべていたのか。
 なにも、分からなかったんです。解らなかったんです。怖かった、恐ろしかった筈なのに何故か笑いが止まらなくて、嗤いが止まらなくて…… 自分の手に握られている刃を、思い切り、 ――あれ?


 取りあえず心を落ち着かせようと思って洗面所まで顔を洗いに来たのだが、自分が何に恐怖していたのか顔を洗い終わったころにはすっかり忘れてしまっていた。
 …なんだか夢見が悪かった気がする。ストレスでも溜まっているんだろうかと溜息を吐いた。

 カーテンを思い切り開けると目に痛いくらいの眩しい光が。……今日も良い天気である。



 01 その違和感がはじまりだった



 樋口 調(しらべ)の、いつも通りの日常が始まる。いつも通り起き上がり、適当にトーストを焼いて朝食の支度が済んだら妹たちを起こしに行く。
私は三つ子の一人であり、長女だった。まあ一番先に外に出てきたってだけで最早長女次女もない、と言った感じなのだが。しかし長女と言うのはいつもお姉ちゃんなんだからしっかりしなさいだの何だのと言われる存在で…… 三つ子にお姉ちゃんもなにもあるかよと文句垂れては仕方なく動いていた。気がする。
…ぶっちゃけ昔の話はあまり覚えていないと言うのが正直な所の話である。でもそんな感じの仕打ちを受けた覚えはある。
 今は親は仕事で何年も家を空けているから、そんな仕打ちを受ける事はないのだが。でもやっぱり長女だからなのかこうやって毎朝朝食を作って妹たちを起こすのは私の役目だった。

「……おーい起きろ二人ともー!遅刻すんぞー!」

 そう声をあげると、妹たちはのそのそと布団から這い出てきた。目をこすりながらぼんやりとしている…まだ脳は起きていないであろう暦(こよみ)と、低血圧のせいか一点をじっと見つめて…いや、睨みつけている纏(まとい)。生まれてからこんにちまでずっと人生を共にしてきた三つ子たちだ。

「ほら、二人ともさっさと着替えて顔洗って、ご飯食べよう。」

 そう促すと二人は「うん」と返事をして行動を始める。私もコーヒーでも煎れようかと思って台所に戻ろうとした…のだが、小刻みに震えている暦の姿が目に入る。心なしか血の気がない…蒼白な顔をしている。

「暦?あんた顔色悪いけどもしかして風邪でも引いた…?」

さすがに心配になって声をかけたのだが、暦はふるふると横に首を振った。

「こわい、ゆめを 見たの。」

余程恐ろしかったらしい、小さな震えががたがたと大きなものに変わった。そっかそっか、と言い肩をさすってあやしてやると、少しは落ち着いたのか震えは止まっていた。暦は、「ありがとう調ちゃん、顔洗ってくるね。」と顔を洗いに行った。


***


「そういえば、怖い夢ってどんなだったの?」

 ふと気になって言って後悔した、また夢の内容を思い出して怯えてしまうのではないかと思って恐る恐る暦の顔を見た。
…が、暦はきょとん、とした顔を私に向けると首を傾げた。





「怖い夢って、なんのこと?」



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