午後七時を回った頃。
いつもならとっくに帰ってきているはずの幸村がまだ顔を見せません。電話をかけるもメールを送るも音沙汰なし。
過保護を画に描いたような男、佐助は気が気じゃありません。

先程からお客様そっちのけで店内をソワソワ歩き回っています。まぁ、いつもお客様より幸村最優先なので別段気に止めることでもないのですが……常連さんたちは慣れっこです。
と、言っても幸村ももう高校生。物の善し悪しをつけ、自己責任で行動すべき立派な年齢です。
ちょっとくらい、連絡せずに出歩いていてもそこは保護者として多めに見るところではありますが、盲目的に幸村を可愛がっている佐助に一般的思考が当てはまるワケがありません。

そのうちに、舌打ちの間隔が徐々に短くなり、座ったはいいが激しすぎる貧乏ゆすりに一般客が地震かと勘違いし始めたため、賢い常連さんたちはコソコソと退散していきました。

「本当もー何なんだよ。何で何の連絡もねぇーんだよ」

底冷えするような低い声に、さすがに一般客の皆様も只事ではないと気づき、次々とお金をおいて逃げるように退散して行きました。


がらん、と静まり返った店内。否、佐助のごォオオ…というデスボイスはBGMのように流れていますが、実質一人ぼっちになった彼がゆらりと黒い影を背負って立ち上がったそのとき。

「ただいまでござるー!!」

能天気極まりない声が店内に吹き込んできました。

「む?佐助?どうしたのだ!!俯いて……具合でも悪いのか?」

いくつになっても幸村は空気は吸って吐くものとしか考えられないようで、決して今のような状況下に空気を読むという選択肢を導いてくれません。


「ううん。オレはいたって健康体よ。
それよりもどうして今日は帰りが遅いの?何かあったのかな?」


俯いたままぼそぼそ話す佐助は決して普通でも健康的でもないのに、気にしない、気にかからない幸村はやっぱり大物です。


「うっ…そ、それはだな……うぅ…あのな、部活が長引いてしまったのだ!!」

「……」

「ま、まことだぞっ!!」

「……そう。でも連絡ぐらいはしないとダメだよ。部活終わってからでもいいんだから」

「すまん……早く帰ったほうがいいと思って」

「いいよ。これからはそうしてね。今暗くなるの早いし、旦那はその辺の人より数倍可愛いんだから誘拐とかされたら大変でしょ?」

「俺は男だぞ!!」

「関係ないよ。心配なの。わかったならちゃんと返事しなさい」

「うぅ……はい」

「じゃ、着替えておいで。ご飯にしよう」

「ぬっ!!承知したぁ!!」


元気よくお店の奥へ消えていった幸村を見送る不健康極まりない佐助。

「本当、嘘がド下手」

あんなに動揺しては例え俯いたままの佐助でも嘘をついていることが分かってしまいます。
何よりずっと大事に大事に育ててきた幸村のこと。微々たる変化も見落とすことはありません。
仮に幸村がどんなに上手い嘘をついたとしても佐助には通用しないのです。美しく言えば深い絆で結ばれた信頼関係。
しかし彼の場合は異常な愛情過多が為せる技ともいえます。



「オレに言えないことって何よ」

メラメラと燃えるは嫉妬の炎。


「オレの知らない旦那?……笑わせんなよ」



さて、佐助のご機嫌を損ねてしまった幸村の隠しごとは何なのでしょうか。

また、あの時のように商店街に地獄絵図が広がらなければいいのですが……どうやら難しそうです。





 

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