さて、私が隼人くんに告白して1週間ちょっとたちました。



が、



「なにも変わってないんだけど!?」

「……」

「告白みたいなのされたけど付き合ってとは言われてないんすけど!?」

「告白はされたんだ」

「"元の瞳の方が好きだよ"って…。思い出しただけでドキドキ…」

「だから髪の毛暗くしたのか」



そうだ。私はブラウンの髪の毛からさっさと黒髪に戻した。パーマの部分は切り落とすのは惜しいので、そのままにしている。

梨花はストレートの綺麗な髪を靡かせて、学校の帰り道の河川敷を歩いていた。



「…やっぱり隼人くんて清楚系が好きかな」

「なんで?」

「元の方がいいって言われたからさ。清楚な私の方がいいのかな」

「…そういう意味なのか?」

「…わかんない」



だって梨花みたいな見た目だけ清楚な美少女が近くにいたら、それを求めてそうじゃないか?あの告白はそれを意図しての事だったのかもしれない。



「おーけーおーけー」

「何を了解したんだよ」

「私も清楚系美少女になる!」

「……」



梨花は私の台詞に『またこいつ変な事言ってるよ』と大っぴらに顔に出した。私はそれに気にせず、携帯を取り出して直ぐさま美容院の予約をする。

告白しても縮まない距離があるなら、行動を起こして縮ませるのみ!







「……」

「…あれ、皆川?」

「別人じゃね?」



次の日、教室のドアを開けると一気に視線を浴びた。黒髪にした時もまあまあ驚かれたけれど、今回は別。

パーマがかかっていた毛先はバッサリと切り落とした。化粧はいつもよりかなり薄め。アイラインをまつ毛の間に塗って、透明マスカラをつけたぐらい。


昨日までギャルの風を吹かせていた私とは全くの別人になった。



「あんたの行動力すごすぎでしょ」



梨花は私を見るなり顔を顰める。

それは昔からの定評だ。『思い立ったら直ぐ行動』又の名を、『単細胞』。



「どう?似合う?」

「似合うっていうか、馴染んでない」

「まあ初日だからね」



なんてサラサラになったら髪をサラリと靡かせて、私は満足気に笑った。梨花はそんな私に深いため息をつく。梨花は私が隼人くんのことを好きなのが未だに理解できないらしい。

晴れ晴れとした気分で机に鞄を置けば、



「随分と変わったな」



隣からそんな声。そちらを見ると、隣の席の宮川がなんだか馬鹿にしたような笑みを浮かべて私を見ていた。



「似合うでしょ?」

「びみょー」

「えっ」

「だって昨日までギャルだったじゃねーか」



なんて言いながら彼は仄かに緑色が入っている短い髪の毛をガシガシと掻く。耳には数個のピアスが付いていて、こいつは私とは比にならないぐらいチャラい。



「まあ私も清楚系目指そーかなみたいな」

「梨花ちゃんの隣にいてよくそーいうこと言えるな」

「……」



梨花が本当は清楚系じゃないって、こいつはいつになったら気付くんだ。何度アタックしても無視されてるくせに。こいつも隼人くんと同じレベルの鈍感だ。

私は「ふん」と鼻を鳴らして、宮川の頭を拳骨で軽く殴った。







私はいつも通り、梨花の家に上がるとソファの上に正座して彼の帰りを待ちわびていた。



「瞳ちゃん、今日はグラタンだけど食べる?」

「食べます。ちなみにお母様」

「なに?」

「隼人くんが清楚系好きという私の推測、当たってると思いますか?」

「……えー」



眉間に皺を寄せて反応しがたい表情を浮かべる梨花ママ。すると私の隣で携帯を弄ってる梨花は「違うと思う」とここに来て否定をしてきた。



「なんで!?」

「なんでって…前のギャルの瞳を好きになったんだよ?」

「そーだけどさ!そのままの私がいいって!」

「それはさ、背伸びすんなってことでしょ?」

「背伸びした結果、あんな格好になったんだけど?」

「うーん、なんて言ったらいいんだろ」



そう梨花が首を傾げると、玄関の扉が開く音。私はその音を聞いた瞬間、一目散に駆け出した。





「隼人くん!!!」

「んー?おかえりだろ、……って、え?」



玄関でスニーカーを脱いでいた彼は目を見開いた私を見る。

まじまじと、彼の少しだけ色素が薄い目が私を捉えている。そんなに見つめられると、恥ずかしいって。



「お前、どうしたの」

「……清楚系目指した」

「なんで急に」

「隼人くん、清楚系が好きでしょ」

「はあ?」



私の台詞に大袈裟な反応をしてきた隼人くん。彼はなにがなんのことやら、とでも言うように訝し気な目で私を見てきた。



「だって隼人くん、元の私が好きって」

「あー、えー?……ああ」

「だから清楚系な私が好きなんじゃないかって!」

「思考が飛躍しすぎじゃね?」

「だってギャルな私好きじゃないんでしょ!?」

「だからって元の瞳は清楚系じゃねーだろ」

「ぐっ」



なんだか強く胸に何か刺さった気がする…。私は胸のあたりを両手で抑えてダメージを軽減させようとした。すると、するりと髪の毛に入ってくる指。



「うわ、サラサラじゃん」

「…キューティクルしたから。キューティクル」

「ふうん」



キューティクルの意味を知らないくせに、隼人くんは適当な相槌を打って、仕切りに私の髪の毛を弄る。たまに毛が頬に当たってくすぐったい。

隼人くんは無表情でずっと私の髪の毛を触ってるだけで、うんともすんとも言わない。…お気に召したのか?



「隼人くん」

「ん?」

「この髪の毛、どうですか」

「……好き」



ぼそりと落とされた言葉。私がちらりと彼を見ると、目が合う。と、彼は「ばーか」と意味わからない悪口を言いながらすっと私から目を逸らして、髪の毛から指を離した。あーあ、残念。


まあ、一生懸命勉強したメイクとか手放してしまうのは惜しいけれどこれで隼人くんが私のことをもっと好きになってくれるならいいや。なんて思ってたら、



「化粧とかしなくていいの?」

「え?」

「だってお前、結構練習してたしさ…いや、すっぴんが嫌とかじゃ全然ねーけど、なんか」

「……」

「元のお前っていうのは、その、俺のために頑張らなくていいとかいう意味だったからさ。なんかまた変な方にお前を頑張らしてしまったよな」




ああ、好きだ。


私が考えていたことも思っていたことも全てお見通し。しかも私のことをこんな風に考えてくれる、不器用な優しさ。罰が悪そうに視線を逸らしている、目の前の彼が好きでたまらない。



「好き」

「うおっ」



ぎゅっと抱きつく。すると隼人くんの匂いに包まれた。



「やっぱり化粧していいですか」

「いいよ」

「髪の毛染めてもいいですか」

「いいよ」

「髪の毛はサラサラにしときます」

「それは嬉しい」



ぽんぽん、と暖かい手が私の頭を慣れたように撫でる。

隼人くんの為に頑張ることは苦痛ではないし本望だけど、彼は私がそうしなくても受け入れてくれる。と、




「…おふたりさーん、イチャイチャしてるとグラタン冷めるよ〜」



廊下に響く、梨花の声。

すると、隼人くんは「うわああ!!」と叫びながら私を自分の体から剥がす。あー、残念。

彼は「グラタン食う!」と駆け足でリビングに向かってしまった。



……あれ、なんか私忘れてる気がする。



「あ、」



まだ私、隼人くんと付き合えてないじゃん。













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