「ただいま〜〜」

「ただいま〜〜」

「あら、瞳ちゃん。また来たのね」



私は小学校来の親友の家に、高校生になった今でも2日に一回は来ている。親友―――梨花のお母さんは嫌な顔1つせずにいつも通りの穏やかな笑顔で私を出迎えてくれた。


私のこの行為は小学校の時からずっと続いていることで、梨花と私は実の姉妹のように親しい。清楚系美少女に見えて口が悪い梨花と、見た目がギャルっぽくて怖いと言われる私は何故か出会った頃から磁石のように引き合って今に至る。

梨花の家が心地いいからここに帰ってくるのが1つの理由だけど、もう1つ。もう1つ私にはこの家に来る理由がある。



「隼人(はやと)くんは?」

「あのクソ?バイトいってんじゃない?」



梨花はソファの上でゴロゴロしながら携帯を弄っている。なーんだ、バイトか。バカっぽそうに見えて塾講師してるもんな。まあ、そのギャップがいいと言えばそれまでだけど。

なんて、私は梨花の家でふらふらしながら彼の帰りを待つ。そんな私に梨花はいつも「健気だ」と言う。と、



「ただいま〜」



リビングに入って来た、黒髪にインナーカラーで金髪を入れている、見た目がチャラい馬鹿そうな男。ちなみにインナーカラーは罰ゲームで嫌々入れたと言い訳された。



「おかえり!!」



私はそんな隼人くんに返事をする。梨花は無視だ。


隼人くんは私を目に入れると、「おー」と楽しそうに笑って私の頭に手を置いた。



「見た目に似合わず相変わらず犬だな」



くしゃりと私の髪の毛を微かに乱すと、彼は私の横を通り過ぎる。そしてソファに寝転がっていた梨花の頭を叩いて「座らせろ」と言う。


梨花は「ちっ!」と盛大に舌打ちして、ソファの隅っこに寄った。隼人くんは梨花の反対側の端っこに座って、携帯を弄り始める。全く、兄妹揃って携帯廃人かっつの。

私はずんずんとソファに向かって、梨花と隼人くんの間に無理やり座った。



「…せまくね?」

「狭くない!!」

「あっちに1人用のソファ空いてるぞ?」

「大きなお世話!」

「…反抗期かよ」



…反抗期になるよ、そりゃ。私と梨花の2つ上の隼人くん。私はずっとずっと隼人くんに片思いしてるのに、隼人くんはいつまで経っても気づいてくれない。馬鹿なのだ。どうしようもない、鈍感なのだ。


私はちらりと隼人くんを見ると、何故か彼と目が合う。目が大きな梨花よりは、男らしい切れ長の奥二重の目。携帯を持っている、ゴツゴツして骨ばっている大きな手。年を追うにつれて、身長が高くなってガタイが良くなった身体。ずっとずっと、私は見て来た。




「こんなに好きなのに…」

「え?」

「隼人くんのこと好きなのに!!ばーか!」




しいん、と静まるリビング。ぱちくり、と仕切りに動く隼人くんの目。




「は……?」




みるみるうちに彼の顔は赤く染まっていく。どうやら本当に知らなかったらしい。



「は、?嘘つくなよ」

「今知ったのかよ、クソ兄貴」

「ほんと、鈍感な馬鹿息子よね〜〜」



追い討ちをかけるのは、梨花とお母さん。隼人くんは「ちょちょちょ」とソファから立ち上がって、私から距離を取る。



「あ、頭痛くなって来た…」



彼はそのままそそくさとリビングから出て行ってしまった。その間の秒数は1秒もなかった気がする。頭痛い人が動ける速さじゃなかった。



「…嫌われたかな」

「「まさか」」

「…うん」



分かってるよ、隼人くんも私のこと好きだもん。

だから、こそ。攻略の仕方が分かりません。













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