ep4
太陽が眩しい。向こうにはそびえ立つ山のように、棒がただ乗せられている。
右足を伸ばし、左足を前に出す。足の動きは徐々に速く。棒の一歩手前で踏み切って、勢いよく飛んだ。
「清水っー!」
キャンパスで1人歩いていると呼びかけられる。後ろへ振り向くと、スポーツ刈りのいかにも元気そうな男が俺の方へ走って来ていた。彼は爽やかな笑顔を見せる。
「いい加減陸上部に入ってくれよ。お前ならうちのエースになれる!」
まただ。一週間に一回はこれだ。俺は少しずれた眼鏡を中指で押し上げる。
「嫌ですよ。何度言えば分かるんですか」
「頼むって。次の大会がさ、夏にあってー」
「俺だって、もう一年はやってないんですよ?」
「でも、トレーニングは続けてるんだろ?」
その通りの言葉にぐっと詰まるが、それでも入るつもりはなかった。理由なんて無い。ただ、陸上からは離れようと思っただけで。
しかしこんな爛々とした眼を向けられてはそんな事言っても無駄だと感じた。
くそ、また走って逃げようか。と、軽くアキレス腱を伸ばそうとした時
「あ、」
同じ学部で同じゼミに入っている女の子を見つけて声を上げる。彼女はこちらを向いて「おお、」と小さく手を振ってくれた。それから、俺の前にいる陸上部員をチラリと見る。
「清水くん、呼んでたで」
「え?」
「教授が清水くんに来て欲しいって、今すぐ」
「そうなの?」
無表情で頷く彼女を見てこれはラッキーだと思った。俺はそそくさと陸上部員から離れて彼女と歩く。
「何で呼ばれたんだろ」
「ん?嘘」
「え?」
「嘘やで。困ってたから」
関西弁で何ともなく話す彼女。
また、これで君に惹き込まれるんじゃないか。
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