ep3



年下って相当なハンデだ。




黒板を前につらつらと無感情に話す教授の話をパーカーのフードの紐をいじりながら聞く。俺はこんな事してる場合じゃない、と思いながら。


こんな話を聞いている間に誰かに盗られてしまうかもしれない。誰かって、あの人達のどれかなんだけど。


先輩はそんな人だ。


そしてその先輩に好意を持っている人達の中で俺は一番年下なわけで。餓鬼なわけで。それだけで焦りが出るのだ。


それぐらい、俺は先輩の事が好きなのだ。





「うしっ」



ようやく講義が終わり勢いよく立ち上がる。鞄に物を詰めて教室を飛び出そうとすれば、



「遠山くん、カラオケ行かなーい?」



と呼びかける女の声。しかしそんなのどうでもいい。俺は聞こえなかったフリして教室から出て駆け足で農学部の校舎に向かった。





「先輩先輩先輩」



気持ち悪いようにそう連呼しながら、農学部の校舎をキョロキョロしながら練り歩く。と、探していたセミロングの髪の毛を揺らした後ろ姿。



「先輩!」



俺はそう叫んで彼女の元へ駆け出す。振り返った彼女は「おお」と挨拶なのかなんなのか分からない声を上げた 。


俺はそのまま彼女の隣に立って、一緒に歩き出す。



「先輩、今度のオカ研の合宿はネズミーランドでどうですか。あそこのラージワールドっていうアトラクションに子供の幽霊がいるらしくてですね」


「えー、私ジェットコースター乗れへん」

「じ、じゃあ同好会のヤツで北海道行きませんか?星が綺麗で有名らしいので、先輩が前言ってた星座も観れるはずですよ」

「んー、お金無いかなー」



関西独特のイントネーション。俺も関西出身だから聞いてて安心する。と言っても、また失敗した。どうやったらこの人は落ちてくれるんだ。


ため息をつきそうになるのを堪えて、またフードの紐をいじる。



「遠山くん、」

「はい、」

「髪切った?」

「え」



確かに昨日切った。だけど少しだけだ。誰にも気づかれないのはもちろん、自分でも分からないほどなのに。


目をぱちくりも瞬かせる。先輩は余裕ようににっこりと笑った。



「そっちの方がええやん」



ほら、何でいつも俺の方がこの人に落ちてしまうんやろ。




 

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