ep2
笑うだろうか。
しっかりとワックスで髪の毛を整えて、毎週クリーニングに出しているそこそこいいスーツを着てネクタイを締める。それが、俺のスタイル。
営業マンたるもの、身だしなみはしっかりとしないといけない。医者相手なら尚更だ。
「この薬はですね」
笑顔をぴったりと貼り付けて、声を作る。人と話すときは声のトーンが重要なのだ。
本当に、疲れる。医者は頭が固い。文系の俺は薬の勉強をするだけでやっとだ。癒しが欲しい、心を癒す薬を誰か。
仕事が終わって車のドアを開け、エンジンをかける。
「ふーっ…」
一人暮らしの家は小さなアパートだ。それで十分なのだが、給料の割りには安い家賃。しかしそこから離れられない理由がある。
無心にハンドルを切って、明るい街並みを抜けて閑静な住宅街に入る。と、見たことがある背中を見つけた。
「あ、」
小さく声を上げてしまう。と、同時に心が暖かくなるのを感じた。急いで窓を開けて、クラクションを小さく鳴らす。
気づいた彼女は俺を見つけて、驚いたように目を見開き頬を緩ませた。
「岩佐さん、」
「こんばんは、乗ります?」
「いいんですか?」
遠慮の言葉を言いつつ早足でこちらへ向かってくる彼女。その、遠慮しないところが好きだ。
「よいしょ、」
助手席に座ってシートベルトを締める。
「相変わらず汚い車内ですね。家も汚いんでしょう?」
「…じゃあ掃除しにきて?」
「それは、嫌です」
きっぱり言う君に言えることは何も無い。
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