Lover of the goat
君は、困った彼女です。
「や、ぎ、さん!」
部屋で勉強してれば、腰に腕を巻きつけて俺を後ろからぎゅっと抱きしめてくる彼女。
自分も大学生で勉強しなきゃいけない身だろうに。いや、さっきまで俺の目の前で勉強してたはずだが。
「勉強は?」
「飽きました」
「…そう」
そんな俺の素っ気ない返しにも「えへへ」と嬉しそうな声を出しながら肩に顔を沈めてくる。
うわ、やばいな。コレ。
自然とシャーペンを動かす手が止まる。
「八木さん、八木さん」
「……」
「無視しないでくださいよ」
耳元でしゃべんなって。なんて、言えず。なんで言えないかって、負けた気がするからだ。
「八木さん、好きですよ」
一日に一回は言ってくる言葉。付き合う前からずっと言われていた言葉。その言葉に慣れたと言われれば慣れたが、今でも胸が疼く。
それを彼女は知ってるだろうか。俺がどれだけその言葉を欲しているか。どれだけ君にそう言われたいか。
「なんで?」
「え?」
「なんで、いつもそう言うの?」
動かないシャーペンの手を見つめながらそう問う。すると耳元に落ちる、笑う息遣い。
「好きだから、じゃダメですか?」
その言葉を聞いて、俺はゆっくりと顔を横にずらし彼女にキスをした。
「全然」
顔を赤くしている彼女に余裕たっぷりに見せながらそう言う。
君は、困った彼女です。
言葉一つで俺の心を支配してしまうから。