オオカミ的考察。
「一ノ瀬さん、」
「はい」
「なーんでもない」
「チッ」
舌打ちしたよね?この子。仮にも上司に、仮にも彼氏に。
そう、俺はあの子の彼氏だ。うん、彼氏。
「ふへへ、」
「気持ち悪いですよ」
本当、ひどいよね。でも分かってるから、一ノ瀬さんは照れてるだけなんだよね。うん、分かってる。
俺は彼氏だから。
「一ノ瀬さん、」
「……」
いよいよ無視だ。俺は前に座ってストローでジュースを飲んでいる彼女を見つめる。
たまに思う。俺はこの子と会ってなかったらどうなってたんだろうって。
いや、どうもならないだろう。そう、何も変わっていなかったんだろうな。
「一ノ瀬さん、」
また名前を呼ぶ。
彼女は涼しげな目をこちらへ向けてそれを細めた。
「だから、なんですか」
口調はキツイが、顔は緩やかに笑っている。こんな日々がいつまでも続けばいいのにな。
「一ノ瀬さんの名前を呼びたいだけ」
「なんですか、それ」
そうやってすぐ照れる君の隣は心地が良くて、俺には勿体無いんだ。
「一ノ瀬さんって癒し系?」
「初めて言われました」
「俺専用の癒し系」
自分の手を彼女の頭に乗せる。それでするりと頭をなぞればサラリと髪の毛に指が入っていった。なんだか…
癒し系か、いや、
「一ノ瀬さん、」
「なんですか、もー」
「一ノ瀬さんは癒し系じゃないよね」
「そう言ったじゃないですか」
「だって、近くにいたらずっとドキドキしちゃうから」
ね、そうやって赤い顔されたらもっとこっちは心拍数上がるから。
俺は手を離して、照れる彼女の顔を見てニヤリと笑った。
ドキドキするのに心地が良いのは、一ノ瀬さんの事を好きでいるのか好きだからか。
まあ、考えたって分からないんだろうな。結局は。
「一ノ瀬さん、かーわい」