重い私と恵まれない彼
私はわがままでうるさくてどうしようもない彼女だ。それを郁人だって分かってくれてる。
分かってくれてるから私と付き合ってるだろうし。そんな私が好きなんじゃないかって、多少自惚れてた。
「ごめん、好きな人がいたんだ」
「え…」
「ずっとずっとその人が好きで、その穴を埋めるために智穂里と付き合ってた」
「郁人…」
「ごめん、でも無理だ。智穂里に悪いし、俺もしんどい」
郁人はその日私のわがままを聞いてくれなかった。その日からはずっと酷く泣いた。喉から血が出るぐらい。
我ながら重いヤツだ。それにこんなにも自分が郁人の事を好きだったことに気づいてしまった。
そんな郁人はその好きな人の事を私に教えてはくれなかった。
「智穂里ちゃん?」
「あ、お姉さん」
数ヶ月後、とある駅で私は郁人のお姉さんと会った。もう別れたとは聞いているのだろう。それでも私に話しかけてくるなんて。
そんなお姉さんのお腹は大きかった。
「お子さん、出来るんですか?」
「ああ、そうなの。女の子って今日分かって…」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
そのままお姉さんはホームへ降りてた。相変わらず綺麗だし、愛想が良い。きっと私の顔はガチガチに固まっていたことだろう。
大きなお腹をした彼女の背中を見送っていると、
「智穂里」
愛しい愛しい声。
振り向けば、郁人の姿があった。
私はそちらへ駆け寄りそうになるが、それを堪えて無表情で彼を見る。
「姉ちゃんと話してたよね?」
「うん」
「あ、えっと。何か言ってた?」
「お腹の子供が女の子だって」
こんな事はどうでもいいだろうと、冗談で言ったつもりだった。
郁人はそうじゃなくて、ってあの笑顔を見せてくれるはずだった。
なのに、
「女の子…なんだ」
眉をぎゅっと潜めて、何かを堪えるような顔をしてそう呟いた。
「そっか、女の子…」
「郁人、」
まさか。
「智穂里。勘違いだよ。その子は姉ちゃんと、…旦那さんの子だから」
ありがとう、そのまま郁人は私の隣をスッと通って行ってしまった。
懐かしい、香りがする。
彼の目には涙が溜まっていた。