単純なんです。
思ってた以上に俺って単純らしい。だって、ほら。廊下ですれ違っただけの女子に一目惚れするぐらいは、単純だ。
「あ、水沢さん!」
その黒いストレートの長い髪の毛を見ただけで誰か分かる。名前を呼べば不思議そうに振り向く顔を見ただけで俺の心は高鳴る。
「遠藤くん」
名前を呼ばれると、もっと鼓動は早くなる。
「あ、何やってたの?」
「ああ、本を読みつつウトウトしてた。遠藤くんは?部活?」
「あ、そう!そうそう。部活部活」
「そっか、ハンドボール部で部長だよね?凄い」
「いや、それほどでも…」
部活を知って貰えてただけで嬉しい。俺はこの人が好きだ。
だけど、なんでだろう。付き合いたい、とかそんな感情はない。見ているだけで、こうやって話せるようになっただけで。
俺は単純だから、それだ満足なんだ。
「水沢さん、今から帰るの?」
「ああ、うん。帰って、中学時代の友達とご飯を食べるの」
「へえ、いいな」
「そう?」
「俺、中学時代の友達とあんま関わってないから」
夕方の涼しい風が吹く。なんだかその風は俺に頑張れ、と背中を押しているようで。
余計なお世話だ、と思いつつ俺の口は開く。
「なんだろ。俺、あんま自分の思ってる事とか言わないし、試合に負けたって泣かないし。感情の共有?みたいなのが、中学の時も部活で出来なかったりして。それで、今、うん、何言ってんだろ」
…本当何言ってんだ、俺。株を上げるどころか、女々しい男じゃねえか。恥ずかしい。何でこんな事を。
と、恐る恐る顔を上げると当の彼女は柔らかく笑っていた。
「部長だね」
「え?」
「私の中学時代の部活の部長もそうだった。自分の感情は置いといて、部員の前に立っていて。凄く頼もしかったよ、尊敬した。もし、遠藤くんが私の部活の部長だったら、」
「だったら?」
「同じように、尊敬してる」
恥ずかしそうに笑う顔。彼女はその顔のまま身をひるがえして俺に背中を向けて歩き出した。
「……」
俺って単純だからさ。
今、凄く、
君の隣にいたいと思ってしまってる。