カフェモカ
カフェモカ
「先輩、今大丈夫ですか?」
「ん?」
ブルーライト眼鏡を掛けてパソコンと見つめ合いっこしていた視線を横にずらすと、そこには同じプロジェクトメンバーの後輩である、佐々木がいた。
短髪で童顔気味の彼は、「あっ、えと」と少しはにかみながら、2つの紙コップを差し出してきた。
「カフェモカと、コーヒー。どっちがいいですか?」
「えっ、買ってきてくれたの?」
「はい!最終の仕様書、全て先輩が手直ししてくれてるから…」
なんてしょんぼりしたように言う姿はまるで犬。ほんと佐々木はあざといな〜〜なんて思いながら、私は「そんなのいいのに」とホイップが掛かっている方を指差した。
「私、スタバでカフェモカが一番好きなの」
「そうなんですか!買ってきてよかったです!!」
「ふふ、ありがとう」
「覚えておきますね」
なんて言いながら佐々木はカップを差し出してくれる。それに口をつけると、チョコの甘さとコーヒーのほろ苦い風味が口に広がった。
ああ…至福、最高。と、佐々木の方を見ると、カップに口をつける彼は顰め面をしていた。
「佐々木?どうしたのその顔」
「あっ、いや、何にも!」
「え、もしかしてコーヒー苦手?」
「……そんなこと、は…」
尻すぼみになる言葉。ぎこちなく逸らされている、つぶらな瞳。絶対そうじゃん…。
「私、コーヒー飲めるから大丈夫だよ。変えよ?」
「い、いやいや!だって先輩、カフェモカが一番好きなんでしょ!?」
「第一、なんでコーヒーも買ってきたわけ?」
「いや、先輩いつもコーヒー飲んでるから好きなのかと…」
「だから私はコーヒーも好きだから、ほら」
そう私が手を差し出しても、彼はカップをくれなかった。その上、つんと唇を突き出して、上目遣いで私を見てくる。
「だって、先輩が一番好きなの、あげたいじゃないですか」
「……」
「その為に買ってきたわけだし。てか俺!コーヒー飲めますからね!」
いつも『僕』のくせに『俺』になった。
顔を赤くして宣言してくる男を前に、私の胸は不覚にも高鳴ってしまう。
「だから先輩、次は2人でカフェモカ飲みましょ?」
くそ、年下のくせに。