水樹の七夕
「ねえ、確か去年も七夕雨だったよね?」
「知らん」
このご飯をもぐもぐと食べている飯田水樹という男。彼はイベント事にことごとく興味の無い男だ。
「リア充は爆発しろってことや」
そんな飯田の妹はサラダをばくばく食べながら笑顔でそう言う。
「でも一年に一度しか会えへんねんで?」
そう言ったのは飯田の母親。彼女の言葉に飯田は目を向ける。
「そもそも何で一年に一度しか会えへんの?」
彼の質問にテーブルは静まり返る。そういえば知らないな。一気に静かになったテーブルにため息が聞こえる。
「ごちそうさまでした」
飯田は手を合わして、お皿を持って立ち上がる。そしてキッチンに向かってお皿を洗い始めた。
「あんなデリカシーのない男に育てた覚えないわあ」
「だから彼女できへんねん」
「うっさいわ!関係ないやろ!!」
妹と母親の言葉に振り返って噛みつく飯田。まあ、あいつはあの容姿で学校では猫かぶりだからモテるんだけどね。そう思いつつ
「ごちそうさまでした」
と私もお皿を持って立ち上がる。そして洗い物をしている飯田の隣に立って、自分も制服の袖をまくった。そして彼の洗ったお皿の洗剤を流そうとする。と、
「時計外せよ」
そう隣から言われて慌てて外した。
「飯田は願い事した?」
お皿を流しながら何となくそう問う。と、ちらりとした視線を感じた後、
「するわけないやろ」
素っ気ないかつ予想通りの答えが返って来た。はあ、と私は大袈裟にため息をつくと、ふん、と鼻で笑う音。
「まあ、強いて言うなら」
「強いて言うなら?」
「洗濯物乾かんから晴れにしてほしい」
「…」
こいつどこまでオカンなんだよ。しかし無表情で真面目に言ってるみたいなのでつっこまないでおく。
「じゃあ、明日晴れたらいいね」
「おう」
洗い物は終わる。私がタオルで手を拭いていると、
「なあ」
エプロンの紐を解いている飯田が私に話しかけてきた。
「なに?」
「あんさ、」
ひらりと、オレンジのエプロンが落ちて彼の手に収まっていく。彼は私に目を合わそうとしない。
「小学校の七夕の時さお前さ、願い事…」
「ん?」
「やっぱ何もない」
「はあ?」
ふいっと飯田は顔を逸らしてキッチンから出て行ってしまった。何が言いたかったんだ?私は首を傾げてキッチンの窓から空を見る。曇天だ。きっと織姫と彦星は会えないんだろうな。
遠いところに行かないで
『みずきくんがひこぼしになりませんよーに』
お粗末さまでした。