fallin...
一目惚れ、とか知らないし。ってか、そんな事言うとかクサいし、ウザいし、ちょっとウケる。
ーーーーーーー「好きです」
『好き』なんて、陳腐な言葉。笑える。それこそウケる。よく吐けるよね、俺と話したこともないくせに。
震えている肩に目をやって、俺は口の端を上げる。
「なんで?」
「えっ、駅で一目見て、ストンって落ちてしまって…」
「ふうん」
どこに『落ちた』の?落とし穴にでもはまった?なんかの試験失敗した?それとも暗い暗い海底に沈んでいってるの?
意味わかんない。落ちた、とか縁起悪いし。せいぜいキモチワルイ深海魚とでも戯れときなよ。
「ごめん、俺あんたの事これっぽっっちも知らないし、ぜんっぜん好きでもないから無理」
「っ、」
「じゃあね」
このセリフを言うのは何回目だろうか。いつもは後ろから鼻を啜る音が聞こえる。が、
ーーーーーー「待ってください!」
強い声に思わず振り返る。と、先ほどの女の子は眉を上げて俺を睨んでいた。
待って。まさかの逆上とか?それは勘弁だ。
「ちょ」
「知ってるわけないですよ。私の一目惚れですもん」
栗色のボブがふわりと揺れる。見た目は弱そうなのに凛とした声が何故かしっかりと俺の耳に入ってくる。
彼女は真っ直ぐこちらへ来て、俺を見上げた。
「好きです。とても好きです。でも付き合って、なんて言ってません。」
「……」
「私はあなたと、仲良くなりたいんです」
ぐるぐる、ぐるぐる、とセリフを考えようとするけれど、頭が働かない。体は強張っていて、動かない。まるで、『落ちている』時のように、何も出来ない。
『落ちる』ってどこまで落ちるんだろう。
ぶくぶくと、沈むように、ゆっくりと。彼女の瞳は真っ黒で、
俺はきっと、そんなところに、『落ちている』。
《海底まで、3cm》