クリスマスプレゼントは、
「無くなればいいと思うわー」
「はい?」
そう言ってケーキを一口二口次々と口に入れていく彼を呆然と見つめる私。
「何が無くなればいいの?」
「クリスマスだよ」
クリスマスが無くなればいいって…、ケーキをバクバク食べて何を言っているんですか。
それに、別に彼女じゃない私とケーキバイキングまで来てくれてクリスマス無くなれとかそれはないでしょ。
「…ケーキ取ってくる」
「あ、俺のも取ってきて」
…ヒドイ。何で好きになったんだ。何で誘ってしまったんだ。何でプレゼントまで買ってしまったんだ。
私は苺が乗ったショートケーキを少し崩して皿に乗せる。
そして彼が待つ席へ戻る、と。彼はぼう、と肘を付いていた。私はツカツカとそこへ向かって皿を置く。
「どーぞ!」
「ありがとう。…なんかぐちゃぐちゃじゃね?」
「気のせいだよ。何考えてたの?」
ケーキを食べ始めようとする彼は私の質問にピタリと止まった。そしてゆっくりとこちらを見上げる。
「別に何も?」
飄々と答えた彼はパクリと美味しそうに苺を食べた。そして私がとってきたケーキを惜しみなく食べていってしまう。
「あのさ、今日クリスマスって知ってる?」
「知ってるけど。だから無くなればいいって言った」
「…私がなんで誘ったか分かってる?」
小さな、声になる。
彼は私を真っ直ぐ見て、フォークをぬるりと色っぽく口から取った。
「わかんない」
「……」
溜息が出そうになる以前に少し涙が出そうになった。もう、無理だ。この男、私の気持ちを全部踏みにじりやがる。
私は涙腺を力いっぱい縛って、ショートケーキを噛みしめる。甘い、私は、甘いのそんな好きじゃないんだけど。と、
「…甘いの苦手でしょ」
不意に柔らかい声。見上げると、無表情に私を見つめている彼。
「なのに、ここへ俺を誘った」
「……」
「なんでだろう。って、ぼーっと考えてて。わかんねえし、どーせ自惚れだろうなって。だからクリスマス嫌なんだよ」
『わかんねえし』。少し、言葉が崩れた。
いや、そんな事じゃない。自惚れ、じゃない。
「自惚れじゃ」
「だから」
彼は私の言葉を無理やり遮る。そして私の皿から苺を奪って、笑った。
「どーしよっかなーって」
「え」
「告白してもいいんだけど、何かそれも個人的に癪だし、だからってお前鈍感だから遠回しにやってもなって」
「ばーか!」
突然の私の罵声に彼は饒舌な口を止めて目を見開いた。鈍感は、お前だろ!!
「好きなんだって!だから誘ったんだよ!」
ああ、こんな風に言うつもりじゃなかったのに。知らず知らずに涙が出てくる。
もう、悲しみを通り越して怒りだ。なのに。なのに、彼は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「マジで?」
ちょっと、私泣いてんだけど。だけど無言で頷くことしかできず。
すると彼はまた、ケーキを一口食べた。
「俺も好きなんだけど、付き合う?」
断る人がどこにいるんだ、この鈍感男。
「付きあえ、馬鹿」
「分かったよ」
クリスマスプレゼント貰えた、
なんて陽気な笑顔でいる君の隣にいるのは、…いや、そんなことは考えてないでおこうか。
『クリスマスプレゼントはキミで』