Merry …




今日は、クリスマスらしい。私はレポートを書く手を止めて、窓を見た。外は真っ暗で、窓は反射して私の姿を映している。


研究室の周りには誰もいなかった。


どうせ彼氏とかいませんよ。どうせ一人暮らしで家族さえも家にはいませんよ。どうせ一人ぼっちですよ。気にしてないし。



「……」



とは思いつつも、ため息が出るのは事実。


くっそ、クリスマスなんてキリスト様の誕生日なんだからな!イチャイチャするならキリスト様を祝いやがれ!


なんて、自暴自棄になっていると、





「ハッピーバースデー、イエスキリスト、アーメン」



…いきなり開いたドアから、茶髪の男。彼はズカズカと研究室に入ってきて、どかりと私の隣にあった椅子に座った。



「クリスマスに一人で何してんの?」

「…レポートですよ!」

「こっわー、何怒ってんの」



そうやっておどけて言う彼をギロリと睨んで私はレポートに視線を戻した。その敢えて『クリスマス』という単語を入れるところ、嫌いだ。


しかし隣からの視線は消えない。しかも笑っているような気配もする。



「…先輩こそ何でここに来たんですか」

「んー、ヨーコちゃんいるかなー?って思って。どうせ彼氏もおらんし、それっぽい感じの奴もおらんし、仕事遅いから一人でここにいるのかなーって」

「……」



全て当たりで何も言えない以前に少し恐怖を感じた。あ、くそ、タイピングミス。



「まあ、そんな可哀想なヨーコちゃんの相手をしてあげようとね、」

「先輩こそ一人のくせに。いいですよ、私が構ってあげますよ。頭はいいけど、性格は悪いから中々彼女出来ずに私に構ってもらうしかない先輩ですからね」

「…ピリピリしてんなあ」



余裕を含んでいる声。彼はいつだって余裕。いつだって、私をからかって遊ぶ。


ふと、視線がパソコンから逸れた。そして白い小さな箱が目に入る。こんなもの、あったっけ…?



「先輩」

「ん?」

「これなんですか?」



と、指を指すと、彼はニヤリと口角を上げて箱を自分の方へ引き寄せた。



「なんだと思う?」

「…ケーキ」



のような、箱だ。でもこの先輩はクリスマスだからと言ってケーキを食すなどするはずがない。


そもそもクリスマスという概念などこの人にあったのか、それだけで私は感動したぐらいだ。


私の答えに目を細める先輩。彼は無言で箱を開ける。



「プリン」

「え?」

「プリン」



ぷ、ぷりん?クリスマスに、プリン?目を丸くする私に先輩は楽しそうに笑みを浮かべる。そして箱からプリンを取り出した。



「お前、アホか。ここのどこに皿があんねん」

「こ、ここで食べるんですか?」

「はあ?当たり前やろ」



そう言いつつ彼はもう一つのプリンを私の前に置いた。



「ヨーコちゃんのぶん」

「え?」

「お前の分って言っとんねん!お前、更年期障害か!耳くそつまっとんのか、ちゃんと掃除しろアホ!!」



罵声を頂きました。しかし信じられない。この自分本位の彼がしかも私にプリンを買ってきてくれてるとは。



「あ、ありがとう、ございます」

「もっと崇めろ」

「素晴らしい先輩です。私めはとても嬉しゅうございます」

「いいだろう」



許しの言葉を得たので、私はスプーンをプリンに差し込む。それを一口食べると甘いカスタードの風味が口に広がった。


…美味しい。私は黙ってプリンを咀嚼する。が、まだ視線を感じる。



「先輩、食べないんですか?」



そう聞くと、彼は不敵に笑って肘をついた。



「プリン買ってきて良かった」

「は?」

「美味しそうに食べるヨーコ見れて良かったわ」

「……っ!?」

「眼福やね」



たまに、声が優しくなるから狡い。先輩は、そう言ってプリンを食べ始めた。


彼は今日もいつもと変わらぬジャージ姿。



「メリークリスマス言うからには楽しまんとな」

「そうですね」

「あー、こうやって世間に流されて、世の中のスイーツ販売に貢献すんのかー。辛いわー」



そう棒読みで嘆く彼を見て、私は少し口角を上げた。




ーーーーーー『Merry Christmas!!』

ーーーーーークリスマスを楽しもう!




 




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