どうしようもなく強張ったからだで顔を伏せていると、まるでなんでもないことのように「下を脱げ」という声が聞こえて、白瀬はびくりと腕を震わせた。その生娘のような自身の反応に絶望的にいっそ笑いそうになって、震えた呼気を吐き出す。馬鹿馬鹿しく、とほうもなくむなしく、やるせない。
「脱げないというなら、相応の手があるが」
なかなか動かない白瀬に時間の無駄を覚えたらしい、灰原が自分は一切着衣を乱さないままこちらへ歩いてくる音に顔を伏せたまま白瀬は一歩後ろへ下がった。それに舌打ちするでもなく灰原は距離をさらにつめ、一歩、一歩、一歩。磁石の反発のように距離を置いて離れていた二人だったが、不意にトンと白瀬の背中が壁に当たって離れていた距離はそれ以上開かなくなる。うなだれたまま顔を上げない白瀬のすぐそばに来て、律儀に灰原は彼女のスーツのボタンを一つ一つと外し、少し考えてからもう一度それをもとに戻した。
「…不要なことだったな」
部屋の中に二人だけとなった今、彼の呟きに反応するものは何もない。彼は気にした風もなくしゃがみ込むと次は彼女のパンツのベルトへ手を伸ばした。カチャカチャと金属の触れ合う音がしてするりと白瀬の腰のわずかな拘束感が消え失せる。そしてズボンのチャックへ手をかけてぷつんと外したときに、灰原は彼女の体が微かに震えていることに気が付いた。灰原が気が付いたことに白瀬も気が付いたのだろう、彼女は伏せた顔を低い位置にいる灰原からは見えないように空いた掌で覆い隠した。もっとも、灰原はちらりともその顔を見上げなかったし、この先見ることもなかったのだが。びっと音がしてチャックが下げられる。ぺろりと下着の下あたりまでめくれたズボンから手を放して、彼は「後ろを向け」と指示を出した。未だに顔を覆ったまま白瀬は動かない。やはり何か思う様子もなく彼はその肩を掴むとくるりと裏返し、その尻を自分の側へ向けた。そのまま臀部を覆っていたパンツをほんの少し下に下げる。要するに挿入できればいいのだ。
そこでようやく彼は自身の着衣を乱した。と言っても彼の場合はズボンとパンツをほんの少し下げるだけだったのだが。
灰原は上着のポケットを探り、一本の瓶を取り出した。簡単に開いたふたをポケットに戻し、瓶のなかのとろりとした液を手に流し込むとそれを自らの棒へなじませて行く。まんべんなくなじませたところで、灰原は同じように流し込んだ液体を白瀬の陰部へと滑らせた。びくりと白瀬の肩が震える。
「ん…」
微かに漏れた吐息のような白瀬の声を聞いて、しかしそれに頓着することはせず灰原は秘部の入り口へ掌をこすりあてる。二三往復したところでよの入り口に指を差し込み、一本二本とその中へ滑り込ませた。白瀬の微かに苦しんだような吐息が壁に吹きかけられる。
「う、……っく……、」
そろそろ十分だと判断した灰原はそこから指を抜くと、そのまま自らの棒を掴み、相手へと差し向けた。
「…。多少体勢を整えろ」
「………」
相変わらず反応しない白瀬にやはり今回も何も言わず、灰原は黙って白瀬の腰を引いた。無理矢理突き出されるような形になったその入り口に差し向けた先をゆっくりと押し当て、そのまま挿入した。つぷりと音を立てて沈んでいくそれに、灰原は初めて眉を寄せた。沈み途中で動きを止めた灰原は白瀬の背中へ向けて言った。
「白瀬、力を抜け」
「……」
「…直に終わる」
「……」
それでも多少は相手を思い遣ったであろう台詞に、返事はない。
その後少しだけ待った灰原は、ゆっくりとではあるがそれを無理矢理奥へと押し込んだ。
「うぅ……う、」
同時に苦悶をこらえたような声が白瀬の喉を震わせる。顔を抑えていた腕は体勢の変化に伴い体を支えるように壁へと押し付けられており、口を覆うことは出来なくなっていた。奥に差し込まれたそれはゆっくりと引き抜かれ、再び奥へと押し込められてゆく。ゆっくりとした前後運動に、声だけでなく伏せられたままの白瀬の顔が苦しげなものになる。
「う、……」
「……」
「……ん、くっ…、あ、」
回数を重ねていくうちに前後運動は早さを増し、たく、たく、たくと微かな音を白瀬の中で立てた。乱暴ではない、どちらかといえば丁寧な方に分類されるその動きを何度繰り返したころだろう。
擦れる度にじわじわと感じる痛みの中。不意に、ぴゃっと冷たい何かが広がるのを白瀬は感じた。それが体の奥へ染みわたり温度を同化させて行くのを感じて、全てを察した白瀬はへなへなとその場にくずおれる。一本の腕を灰原の片手が掴んだため床に頭をぶつけることはなかったが、そうでなかったら力の抜けた白瀬の頭はそのまま床に倒れ伏していただろう。
灰原の腕に支えられ座ったままの白瀬の体の芯から、重力に引かれた薄紅色の精液がぽたぽたと床に流れ落ちる。

床に落ちた滴の中には、一滴とも感情から来る涙は含まれていなかった。

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