(名前)
※フツーを気取っちゃってる系高校生♀
始業五分前。少しざわめく教室で次の授業の支度を終わらせて、私は窓から外の風景を眺めてため息をついた。退屈からくる倦怠感――入学式から一週間も経たずにこんな気持ちになるなんて。
あーあ。高校生って、もっといきなり大人になるもんだと思ってたのになあ。
や、だってさ。華の女子高生って言う言葉だってあるぐらいだもん。中学のときは諸事情からいろーんな事を我慢して汗光るセーシュンって奴を謳歌しちゃってたわけだけど、諸事情につきそれも中学までの話、束縛から解き放たれた今となってはきらきらしい「今までとは違う生活」が待ってるかも!なーんて考えちゃっても仕方がないとは思わない?つまりそんな風に考えちゃってたんだけど……実際は、中学生のときまでの生活にプラスして五分ぐらい一時限の授業が伸びただけ。あんまりうれしくはない。人間関係も顔と名前が変わったぐらいでクラスの中でも特に浮くことなく無難に位置付けが終わって…それなりに楽しいけど、そこまで楽しいわけじゃない。真新しい何かがあるわけでもない。高校生になるから!ってことでつけてみた日記も僅か一週間にしてネタ不足でごく細々とした中身になってしまっている。このままでは消滅の憂き目に会うこともあり得なくはない。
入学前までは、高校って今までとは考えらんないぐらい大人な世界で、これまでとは全く違う新世界が待ってるもんだと思ってたのにな。
進学した先が進学した先だったのもあるかもね。
開拓分校――名前からして土臭さ満載なココにどうして進学したのか考えるだけで色々思うことが無いでもないけど、それは取り合えず置いとくとして――この学校の授業の科目一つ、見れば見るほど「高校生」の「華やかさ」とはかけ離れていて。
あーあ。
「つまんねーの。」
…。
あれ、わたし今、口に出してた?
そう思って咄嗟に口に手を当てると、右隣の席で笑い声。その声質は入学してから今までにも何度か聞き覚えのあるもので、ついでに言うとついさっき聞こえた声と同じものだった。
例の、軽井紀矢くん。だ。
「…なに?」
「あ、やっぱ図星?みょうじちゃんって分かりやすいよなー」
¨みょうじちゃん¨って。
こいつちゃん付けかよ。馴れ馴れしいな…いや別に良いんだけどさ。それはともかく、分かりやすいよな、って何ソレどういう意味?
あんまりいい気分はしないかも。
「いやさ、もしかして、みょうじちゃんってけっこー時間持て余しちゃってる感じ?とか思っちゃって。帰りも一人でちゃっちゃか帰っちゃうしよ」
「…」
まあ、否定はしないけど。諸事情により部活をやめたはいいけど、時間が余って仕方が無いのだ。
「で?」
「うわ、上から!まあ良いけどさ。んで、放課後暇なら時間潰しぐらい付き合うぜって話」
「……え?」
予想外の方向からぽんと投げられた提案に目を瞬く。暇なら付き合う…要するに遊びの誘いだよね?
「…なんで?」
「なんでってそりゃあ、仲良くなりてぇなって。丁度ヒマしてるみたいだし、みょうじちゃん可愛いもん」
「…ぷっ!」
「ん?」
あはははは!何それ!本人に言うこと?
なにもそんな言い方、そんな下心押し出してくる言い方しなくても良いじゃん!
「あはは…うん、うん。いいよ、別に何もすることないし。何処行こっか…あっ、それとも他に誰か誘う?」
「それはまた今度にしてさ、みょうじちゃん地元の子じゃないんだろ?だから俺がこの辺案内してあげる」
「あ、軽井君地元なんだ?」
「ん…まあそんなもんかな。んじゃそーいう事で、放課後な」
放課後ね。
まあどれだけ遅くなっても終電にはならないだろうし、最近は早く帰りすぎて「今度は部活には入らないの?」「お友達と遊んできてもいいのよ?」とお母さんが妙に心配してきたところだったから丁度よかった。
うん、今日は日記に書く内容が少しは多くなりそうだ。
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