例えば宇宙が滅びたとして、最後に言葉を発するとして、私があなたを好きだったとして。
果たして、私は、貴方に伝えたでしょうか。




「何故だ……何故邪魔をする!」

遂に怒りを隠そうともしなくなったその声に引かれ、手の中のボールを握り締めながら振り返った。この世界ただ一人の住人にして主、ギラティナが身を預けたボールは紫の色をしている。なんて皮肉でしょう。紫の色だなんて死の色だなんて、これが誰でもない目の前の人から貰ったものだなんて、ああなんて皮肉。
その皮肉に、あれほど感情…「こころ」を動かすことを嫌い、また飽くまで冷静に立ち振る舞うことを信条としていたこの人は、今、何を考えているのだろう。思いを馳せかけ、口の端に歪んだ笑みを浮かべた。

何を考えているのだろう、だなんて──そんなの。わかりきっていることでしょう。喉元に迫る何かを無理矢理飲み込んで、嚥下する。まるで海の水のような味がするの。

「君の様な聡明な子供なら、私の言っている事が、分からない筈も無いだろう!
「……はい。」
「人のこころが、どれほど醜く、またどれほどの悲劇を産み出すか、君はもう分かる筈だ!」「………はい。」
「だのに、何故!」


人という生き物はとても弱い生き物で、人の世と言うものはとても理不尽で。他者を傷付けることで自らの優越を感じ、誰かの幸せは大抵誰かの不幸せに繋がっていて、時には幸せを願うその心そのものが悪と化す。

ああ、かわいそうな人。
かつて誰より繊細だった彼は、その繊細さ故に深く傷付いて、そしてその傷付くような自分の心を、卑下し、忌避してしまった。
だからこそ、こころの無い世界を産み出そうだなんて。

きっと悪を語ってこそいるものの、これこそが彼の正義で、これだけが彼にとっての正義なのだろう。
でも。だからこそ。


「傷付くこと、それも、また、生きるよろこび、だと思えはしませんか」
「……君とは、わかりあえると思っていたよ」


わたしも。
わたしも、あなたと、わかりあえるつもりでいたのよ。

いたのに!

「覚えていろ。いつかお前は、お前たちは、私が作った心のない世界に生きている」
「………」
「必ずだ!」


私への憎悪を抱えたまま更なる深みへと落ちて行く背中を見ながら、小さく息を吐いた。
結局、私達は、最後の最後までわかりあえることは無かったのだ。


この気持ちを失うぐらいならこの世界の苦しみという苦しみを受けても構わないと、思わせたのは誰でもない貴方なのに。






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確か初めて書いたアカヒカだったように記憶しています。

20130210 初出
20140225 修正後掲載

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