キレイな顔なのにな、
小さくそう呟いたバッツはスコールの額にかかっている前髪を手で退かし、もう一度同じ言葉を口にした。
「キレイな顔なのにな。勿体ない」
「…何が勿体ないんだ」
「その額のキズが勿体ないなーって思ってさ。いや、キズがあってもキレイなんだよな、スコールの顔って」
前髪を退かしていた手を頭の上まで移動させ、勿体ないと言う傷をバッツはまじまじと見つめていた。
「モンスターにやられたのか?」
「……‥確かじゃないが、誰かに…付けられたと思う」
「…‥。…そっか」
確かにモンスターにやられたキズって感じじゃないよな、と付け加えながら、バッツは傷を見てるだけで触れようとはしなかった。スコールの頭の上に置いていた手で、傷がある額にかかるように、前髪をゆっくりと直していく。傷は前髪で少し隠れた。
バッツはなにかをひらめいたように小さく「あ、」と言った後、言葉を続けた。
「…ってことはスコール、“キズもの”ってやつになる?」
「…」
「…ごめんなさい怒らないで」
「怒りたくもなるだろ…‥」
人の顔をまじまじと見ておいてそれは無いだろう、と言ったあとに「キズもので悪かったな」と半ば不貞腐れたようにバッツへ言葉を返した。
その言葉に弾かれたようにしてバッツが慌てて声を上げる。
「そっ、それなら俺が貰ってやるよ!」
「仕方なしにならこっちから願い下げだ」
「! 違うって、スコールのことが欲しいんだって!………‥あれ、今、俺何て言っ……‥」
「…………‥バッツ…‥」
自分で何を発したか把握出来ていないバッツは目の前で先の言葉を告げられ顔が赤らみ始めているスコールを見て、己が何を言ったか恐る恐る訊いてみた。
「…‥欲しいって、俺、言った?スコールに」
「……‥、あんたばかだろ2回も言うな」
スコールは伏し目がちにしながら長いため息を吐いてバッツのほうをちらりと見た。当の本人はみるみる自分と同じように顔を赤くさせていく。スコールは心のなかで「シンクロしてる」と呟いた。
「ううわ俺はっず!え、どうしよう顔熱くなってきたスコールどうしよう!!」
「うるさいばか」
「お、お前も2回もばかって言うなよ!」
「うるさいそんなに欲しいならくれてやる」
「だからばかって…‥え?」
「…」
バッツの左手に自分の右手を絡ませて、一度だけぎゅっ、と力を入れたかと思えばしばらく経たない内にするりと指をほどいた。スコールの指を眺めながらバッツが再び恐る恐る投げ掛ける。
「ス、スコール?今の聞こえなかったかなー、なんて…」
もう1回言ってくれたりしない?とお願いしてみると素っ気ない一言だけ返ってきた。
「バッツの二の舞になるから言わない」
「! す、スコールのケチ!」
「うるさい」
でもそんなスコールがすきだ!と叫びながらバッツは嬉しそうにスコールを抱き締めた。