朝起きてから、体がやけに重い気がする。頭のてっぺんから足のつま先にかけて…なんて言うか、体中がとことんだるい。必要最低限ですら動く気力が湧かなくて、昼前になってもテント内に敷いていた布団の上に何をする訳でもなくずっと座っていた。俺らのテントの班は今日明日はイミテーション退治はやらなくていい、と前々からウォーリアに言われていたから、のんびりしていると言えばそうなんだけど。のんびりというか、辛うじて起きてるというか。
具合悪いかも、と同じテントにいたジタンに言ってみたら、やっぱりか、と返ってきた。
「だってお前、顔が赤いもん」
「水、持ってきたぞ」
外でクラウドと手合わせをしていたスコールがテントのなかへ戻ってきた。スコールも俺とジタンと同じテントで生活している。
ジタンから俺の話を聞いたみたいで、飲み干されたポーションの空き瓶数本に水を汲んできてくれた。
「おお…、ありがとな」
「飲むか?」
「うん、のむ」
クラウドはスコールと手合わせをした後、セシルたちとイミテーション退治へ行ったらしい。ほかのメンバーも午前中からイミテーション退治へ行っているのでテント付近には誰もいない。
横になっていた体を起こし、瓶を1本受け取る。
「クラウドがお大事に、だそうだ」
「あはは、めずらしいな」
「…‥ジタンは?」
「じたん…は……、あれ、なにかいって、てんとをでていったんだけど」
「……‥。バッツお前…‥熱あるのか」
呆れ顔とも心配顔とも取れる、何とも言えない表情でスコールがこっちを見てきた。「ねつ、あるかなぁ」と言いながら瓶に入っていた水を半分ほど飲み干す。僅かだがポーションの匂いがした。
「もし、いま、てきがきたらまずいよな…おれたたかえない」
「…敵が来たら、俺が薙ぎ払う」
俺を捉えた青の双眸が、真っ直ぐにこちらに向かれていた。どの青よりもずっときれいなその目から目を離せられなくて、しばらく何も考えないで眺める。スコールに「どうした?」と呼ばれるまで我を忘れて見入ってしまった。慌てて「なに?」と返す。
「どこか具合が悪くなったか?」
眉を潜めて心配そうな顔をしながらスコールが問いかける。俺のこと心配してくれてるんだなあ、とそれはもう嬉しくなって、顔がほころんだ。
「ううん。すこーるがかっこいいとおもって」
「……‥寝ろ。」
今度はさっきの心配顔と打って変わって呆れ顔をされた。なんだよーはずかしがるなよー、と言ったら無理やり布団に潜らされた。やっぱり熱があるのか、少しくらくらする。
布団からスコールを見てみると口を結び目を泳がせている。多分、言わなきゃよかった、とか考えてるのかな。顔を俯かせているから表情はよく見て取れないけど。
「すこーる、もっかいだけいってよ」
「………言わない」
「いいじゃんか、おれとおまえのなかだろー?」
「…俺とバッツの仲はあくまで戦友だ」
「そんなカタイなかじゃないだろー。すこーる、もっかいだけでいいから」
「〜〜〜〜〜…っ」
「…おっ、なんだバッツ、ちゃんと寝てるじゃん」
俺が布団に押し込まれてスコールと平行線な会話をしていると、ジタンがただいま、と言いながらテントに戻ってきた。右手には、ポーションの瓶が2本握られている。俺とスコールはおかえり、と返事をした。
「じたんはどうして、てんとをでていったんだっけ」
「はぁ?イミテーションからポーション盗んでくるって言ったじゃん」
「そうだったっけ。そっか、さんきゅ」
「人の話はちゃんと聞けよなーって言いたいけど、まぁ熱あるからしょうがな………ん?」
俺の枕元にポーションを置きながら、何故か俺とスコールを交互に見る。
「……スコール、お前も熱あんの?」
「…?いや、無いと思うが」
スコールは訝しげな表情をしている。多分俺も、同じ表情。
「………なんかバッツより顔赤いんだけど」
「!」
「えっ、えっ?あ、ほんとだ、すこーるかお、まっかだ!」
「うるさいバッツ!」
スコールの顔は見る見ると赤くなっていき、ほんの少しだけ涙目になっていた。それを見たジタンがすかさず囃し立てる。
「ははーん、俺がいない間に何かあったなー?」
「何も、」
「あのな、すこーるがっ」
「何もない!!」
いつもの冷静さがどこかに消えてしまったスコールが声を荒げる。ジタンはそれを見てお腹を両腕で抱え、下を向きながら笑いを堪えていた。敵の心配は、まぁしなくちゃいけないけど、たまにはこんな日もいいな、と熱がありながらも思った。