「な、スコールって雨、すき?」


穏やかな陽気とは言い難い(寧ろ暑い)晴れ渡った空を見上げながら、バッツが問いかけてきた。視線は変わらず青空に向けている。
自分もつられて青空を見てみると太陽が容赦無く肌を刺す感覚に見舞われた。ジリジリと音が聴こえてきそうな低温度の火傷が、痛い。


「………好きではないな」


バッツはどうなんだ、と言いかけた口を思わずつぐむ。自分の名前と同じ言葉を嫌いだと言われたら、自分を否定されている気がしそうでこわくなった。だがそれは杞憂にはなってくれなかった。


「俺も、しとしと降る雨は好きじゃないなあ」


ジリ、と火傷が胸の奥まで届いた。肌が太陽光に侵食されるよりも、きつく鈍い痛み。自分の心が思っていたよりも脆いことに気づいて、少し自嘲したくなった。


「俺さ、虹が好きで」


自分自身に項垂れているとバッツが右手で空を指しながら呟いた。右手のその先に虹はなく、代わりに綿飴のような雲が遥か遠くにあるのが見えた。


「ほら、虹ってキレイじゃん?」

「……そうだな、…虹のほうが雨なんかよりずっと良い」


少し刺々しい言い方をしてしまう。たかが天気で何をふて腐れているのか自分では分からなかった。いっそ名前が雨じゃなく虹だったら良かったんだろうか。でもレインボウという名前は自分にさらさら合わないし、何より想像したくない。


「虹って色んな種類あるんだぜ?白い虹とか、空には無いのに浅い池の水面に虹が落ちているときだってある」

「………詳しいな」

「旅人ナメんなよ?」


バッツは少し得意気に笑みを浮かべ虹について色々話始めた。一度に二本架かる虹と虹の間は暗帯になっていること、雨粒が大きい程鮮やかな虹が架かること、大きすぎると雨粒が楕球になって虹が架からないこと。
彼に学歴があった話など聞いたことがない。どこかで得た知識なのだろうか。疑問に思っているとバッツが話を続けた。


「旅をしてるとやっぱり天気って大切なんだ。朝から雨が降ってるとボコ…あっ、相棒な。ボコが雨で濡れるから風邪引かないか心配だったし。積乱雲を見つけても、周りが草原だったら夕立なんかどうしようもないんだ」

「…………(そこまで雨が嫌いか…)」

「でも夕立とか通り雨はわくわくする!」

「…虹ができるからか」

「おっ、正解!」


スコールは頭いいなー、と言われたが、雨と虹の話題しか出ていない状況で思い当たる単語は雨と虹くらいしかない。


「虹が好きな理由がもうひとつあるんだ」

「(……訊いて欲しい風だな…)…なんだ」

「虹と地面がくっついている部分を掘るとお宝が出てくるんだぜ!」


確かコウキャクマイホウ伝説って言ったっけかな、とバッツが一方的に肩組みをしてきながら、カタコトに発した伝説の名前を口のなかで何度もリピートしている。虹脚埋宝伝説で合っていると思うが、肩組みに特に抵抗はせず、隣で呪文のように同じ言葉を口ずさむ声を聴いていた。
燦々と太陽が降り注ぐなかで肩組みをするのはさらに暑く思えたし、じんわりとした風が顔を撫でて余計暑く感じた。その風に流されてか遥か彼方にあった綿飴のような雲が少しだけこちらに近づいていた。
呪文を唱え飽きたらしいバッツが肩組みをしていた腕をするりとほどき、1歩先を歩く。再び話が始まろうとした瞬間、目線が俺と合った。


「虹を見るのはそりゃもう好きだけど、虹が出るまでのわくわく感のほうが好きなんだ。虹よりも夕立とか通り雨のほうがすき」


その言葉を聴いて、さっきまで自嘲したくなったり項垂れたりして重くなっていた心がふと軽くなった。ああ、レインボウなんて名前じゃなくてよかった。暑さのせいであまり働かない脳を最低限動かして、ぼんやりとそんなことを考えた。脳裏に自分の名前がチラつき、段々こそばゆくなっていく。
風に流され雲が大分近づいてきた。もうすぐ、夕立の合図。


「だから俺、激しい雨ってすきなんだ。英語で言うと、確か、」








そして名前を呼んで、 



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