ココアパウダーの純情

Twitter
#いいねの数だけ自カプSSを書く
第八弾 遊作と遊作男夢主

ペロリと舐められた指先に全神経が向かった気がした。

斎藤に夕食に招待されるようになって早半月。遊作は斎藤拓真についての考えあぐねていた。斎藤拓真はLINK VRAINSで桃髪と言う名のアバターで活動していた。決闘者としては、最下流と言っても過言では無い戦績。しかし、比較的他の決闘者とは仲が良好であり、あのハノイの騎士のリーダー、リボルバーとも細からずも縁を結んでいた。若しかしたらハノイの騎士は自身の正体に気付いているのでは無いだろうか。そんな焦燥感があった。
「米が冷蔵庫に沢山あるから、今日は炒飯とスープにするかな〜?」
そう言いながら、台所で食材を漁る斎藤からはそんな狡猾な印象は受けない。彼はどうやらネットとリアルでの自分を使い分けているようだった。
「辛いの平気か?」
「あ、はい。」
座ってろ。と、言われ、デーブルに腰を落ち着ける。遊作と同じ一人暮らしの部屋には椅子が2脚あることから、長時間接するような相手が自分以外にいることを覗わせる。部屋の調度品はこのテーブルとベッド、本棚、パソコンディスク位で、お世辞にも生活感があるとは言い難い。まあ、人のことは言えないが。強いて言えば、溢れるほどある書籍が、ここに人が住んでいることを教えている。デュエル指南書や料理、参考書なども並んでいるが、殆どが心理学に関わる本であった。デカント、フロイト、コフート、パブロフ、セリグマン、各時代の著名人の本が並べられている。起源と行動と認知。とても斎藤の様な快活な人間が好む物とは思えなかった。
鍋の煮える音と、ジュワーッと、油が跳ねる音がする。部屋に香ばしい匂いが広がる。斎藤を見ると、ヘラで鍋を掻き混ぜている。多分、手際が良いのだろう、淀みの無い動きで目を向けること無く調味料を取っては鍋へと振り入れている。視線を感じたのか、斎藤が遊作を振り返る。目が合うと、ニカッと、笑って直ぐ出来るぞ。と、声を掛けてきた。空腹で急かしていると思ったのだろうか、少し居心地が悪かった。
「ーよしっ、後は皿に盛って、ごまを散らして〜…出来たぞ〜早く食おうぜ!」
斎藤は皿とスプーンを両手に持って遊作を囃し立てる。皿とスプーンを受け取り、皿に汁椀と茶の入ったグラスが並べられる。どれも揃いの食器で、来訪者と食事を供にすることも分かった。
「ささ、お熱い内にどーぞ!いっただっきまーす!」
「…頂きます。」
まずはスープに手を着ける。鶏ガラの濃厚さを生姜が引き締め、さっぱりとさせる。具のキクラゲのコリコリと人参のシャキシャキが飽きを来させない。
メインの炒飯はシンプルなネギと卵だが、赤味がある。しかし、香ばしい匂いが鼻を擽る。一口頬張ると卵を纏った米がぱらりと解れ、ムチムチとした弾力がある。醤油の香ばしさの中に濃厚な甘味と辛さが同居する、不思議な味わいだ。サラダで口の中をリセットする。レタスの僅かな苦みとトマトの酸味とコーンの甘味。それが丸い酸味のドレッシングで調和している。箸休めにちょうど良い。
一通り口を付けて、息を吐く。
「旨いか?」
「……はい。」
遊作の答えに斎藤は安心したような、満足したような息を吐く。存外人との付き合い方は慎重なようである。
「これさ、昔テレビで観た中南米風の炒飯でさ。甘くて辛くて塩っぱい不思議な味だろ?なんか癖になるんだよな。」
「そうですね。」
正直、食べられれば何でも良い遊作にとってはどうでも良い話だったが、斎藤にとっては重要なファクターのようだ。適当に相づちを打って合わせる。少しでも斎藤を見極める情報が欲しい。と、流れるままに頬張った。

「デザートにトリュフだよ〜、貰い物だけどさ。」
そう言うと、斎藤は茶色地に金字があしらわれた袋をそのまま開いて出す。
「皿とかフォークとか要らないだろ。」
「別に構わない。」
そう言って丸いチョコを摘んで口へと放る。それに倣って遊作も口へと運ぶ。濃厚なミルクにカカオの風味が口内の熱に溶けて広がる。最上のチョコのとける感覚は至上の幸福感をもたらすと言う。正しくこれはそう言っても良い、官能に訴えかけるようなものだった。
「…… 甘いな。」
しかし、斎藤は少し眉を顰めて珈琲を呷る。
「苦手か?」
「余り好まないな。」
「じゃあ何で貰ったんだ?」
「断る理由が苦手ってのも、相手に悪い気がしてさ。食べたらアレルギー出るわけでも無いし。」
それに……
そう言ってまた手を伸ばして、一つ摘む。今度は指先で遊びながら眺める。
「父さんからの貰い物なんだ。」
「……そうか。」
それだけ言うと、チョコを食べることに徹した。ただひたすらに摘んではたべ、摘んでは食べを繰り返し、遂にはそこをかつりかつりと爪が叩く。
「無くなったな。」
そう言って袋を徐に片付け始める。指先に残った茶色を眺めていると、つい。と手を伸ばされる。
「ん。付いちまったな。」
「!?斎藤先輩!!」
突然指先を含まれ、舌がネロリと這う。拭うためだろう、念入りに這う舌に背筋がゾクゾクとする。
「綺麗になったか?」
そう言って指を解放する斎藤。この男には悪気は無いのだ。
「普通に手を洗わせて下さい。」
「ん、わりぃな。何時も自分だと舐めて終わりだからさ。」
と言って、自身の指先も舐る。口唇から覘く舌に、先程の感覚が蘇る。
熱くなっているのは顔か、指先か。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -