「裾直し…!…おや?わたくしはいったい…」

謎の奇声と共に目を覚ましたノボリにホームでの出来事を伝えれば、申し訳ありませんと一言呟いて頭を抱えてしまった。

「顔色悪いけど大丈夫?」

「その言葉、そっくりそのままお返し致します…アサオは今何処に?」

「カナワに行くって言ってた。まだ帰ってきてない」

「カナワですか…」

カナワに向かわせたのはノボリ自身。勿論仕事でだ。だがしかし、アサオの事だからどうせサボるだろうと思いシングルトレインが戻り次第クラウドあたりに行ってもらおう思っていた。それがこの様、良い事なのに頭が痛いというとんでもない状態。

「アサオどうしちゃったのかな…」

「わたくしに聞かれましても…」

「だよねー…」

いつもサボってばかりで、まともにこなすのはポケモンバトルのみ。そんな部下がデスクワーク、さらには使いまできちんとこなす。天変地異の前触れとしか思えない事態に、何度目かわからない溜め息を吐く双子は相も変わらず顔面蒼白。

「アサオ何かあったのかな…」

「何か、ですか…」

「だって可笑しいでしょ!」

「確かに普段からはまったく想像出来ません。ですがあれが本来のアサオという可能性もありますから一概に可笑しいとは言えないのではないでしょうか…?」

「あんなのぼくの知ってるアサオじゃないよ!」

「そうは言ってもわたくし達はアサオ本人ではありません。わたくし達の知らないアサオがいたとしても可笑しくはありません」

わたくし達がどうこう出来る事ではないのです、と続けるノボリのそれはまるで己に言い聞かせているような物言いで、そんな片割れを見てしまっては何も言い返せなくなるに決まっているだろうと心の中だけで軽く悪態を吐くクダリ。そこから双方無言。空気は重くなる一方だが声を発せられる空気でもないこの状態に、どうしたものかと思考を巡らせる二人だが、正直なところ部下のとんでもない変化のインパクトの方が大きすぎて、そちらが考えを遮ってしまいまともな考えが浮かばない。

「ん?ボス、お揃いで顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

「「ブッ…!」」

幸か不幸か、二人の悩みの種である御本人登場に思わず吹き出してしまった双子を見て立ち尽くすアサオ。

「え…マジでどうしたんですか?」

クダリわかっていますね。もちろん。これはもう直接聞くしかない。アイコンタクトで会話を交わした後、ここはわたくしがとでも言う様な目力で立ち上がったノボリに目を向けるクダリとアサオ。

「単刀直入に言います。アサオ、今日の貴方変ですよ!」

「…は?」

きっと今この部下は、何言ってんだこいつと言いたげな目をしているのだろう。目元は隠れている為、実際のところはわからないがきっとそうに違いない。だがしかし、ここで引き下がるわけには行かないので取り敢えず目力で何とかしようと試みる。ややあって、アサオは口を開いた。

「改まって何言ってるんですか?自慢じゃないですけど私いつも色んな人に変だって言われてますよ?」

「そう言う事ではなくて!わたくしは貴方がきちんと仕事をこなしているというとんでもない事態を変だと言っているのでございます!」

気迫に押され僅かながらもたじろぐアサオだったが、顎に手を当て考える素振りを見せた後に口を開いた。

「あー、もしかして私が真面目ってのが可笑しいって事ですか?」

「先程からそう言っているのですが」

「流石に失礼じゃないですか?まあ気にしませんけど」

「で、何か理由でもあるの?」

「理由ですか?うーん、今日が4月1日って事ですかね」

「…それはどういう意味なわけ?」

「エイプリルフールですよ。私昔からこんなんだったんで母から嘘でもいいからたまには真面目になってくれって言われた事あるんですよ。なので、じゃあみんなが嘘吐く日に自分だけ真面目になろうって決めたんです。所謂自分に嘘を吐く的な。その名残って言うか癖が抜けないって言うか。自分に嘘を吐くとかかっこよくないですか?」

「…え、それだけ?」

「え、寧ろどんな答えが欲しかったんですか?」

「いや、別に変わった答えを求めてたわけではないけど…」

「ボス達の前で言うのもどうかと思いますけど、明日からは普通にサボるんで安心してください。って事でスーパーシングルの挑戦者ぶちのめして来まーす」

そう言い残しその場を立ち去るアサオを見て、サブウェイマスターの二人が色んな意味で脱力したのは言うまでもない。